kuro

髪を束ね手を洗いリビングに戻ると
アトリエの入り口にセットされているハズのイスがいつの間にかキッチンの入り口に置かれてた。

そこにくろが黒いセットアップのジャージを着て座った。
足を片方あげてその上に顎をのせる仕草が可愛くてくすりと笑うとそれに気づいたくろが首を傾げて

「早くー。」と両手をパタパタ動かした。



そんなこと、男の人に初めてされた.....。

どくどくと耳まで赤くなるのを隠すためにも私は料理をそそくさと開始し始めたのである。



「.........。」


「.................。」

「.....仕事は......?」


「大丈夫。今日はもう、おしまい。」



「そう.....。」



「...」


「............」


き、緊張するっっっっ!


視線が私にざくざくとささりねっとりと絡み付いている気がする!
いや、気がするのではない。
実際そうなのだ。
でなければこんなに左側を向けないなんてことあるはず無い!



じーーーっと私をみるくろ。


せめて手元を見てほしいのに。



こんなに「自分」に視線が集中するなか料理なんてしたことがない。


味見が味見にならない。



味がわからないっ。



耐えられなくなり正面を向いたままくろに話しかける。(目があうと分かっていて左をむくことが出来ない。)



「た、楽しい?」



声が上擦る。やむ無し。


「うん。かわい。」


解答おかしい。
火が顔から出たに違いない。


ますます左がみれない。


「も、すぐでき、ます。」



片言。ぶつ切り。味わからない。
でも私に責任はない。
くろのせいだ。

早くこの空間から逃げ出すべく
驚異的なスピードで完成されたパスタ。



「凄い。はやい。」


そうでしょうよ。

ぱちぱちとどうやら拍手をしているくろに心のなかで悪態をつく。

「お皿だすー。」


そういうと椅子から立つ音がして
ようやく左を、むくことができた。



ワークオーバーな心臓を撫で下ろしていると背後に気配、耳元に声。

「はい、お皿。」

「っ。ひゃい。」


「ひゃい?」


噛んだのです。貴方がちかくて噛んだのです。

盛り付けながらまた変な鼻唄を歌う背中を睨み付けるも「できたー」とはしゃぐ姿に許してしまうのだった。





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