kuro


サラダも小さなテーブルに置く。

すると当たり前のように2枚組の皿が
でてきて、トングがセットされた。


ずきりと胸が痛むのが分かりやすく伝わる。
きっと以前話していた大切な「お日様」のような子のためにあるのだろう。


くろのアトリエにはくろ以外の
人影を感じることはない。
そもそもベットが今座っている
ソファーなのだから、
彼女と同棲してる可能性はゼロに近い。


でも、だからこそ気になってしまう。

お揃いのマグカップに
セットのお皿。
二人前用の耐熱容器。





そう、私の家のようだ。


今は居なくとも、少し前まで居たのではないか、くろはその人の帰りを待っているのではないか、忘れられないのではないか。


余計な考えが頭をよぎる。
考えたって仕方のないことなのに。

くろは私の恋人ではないのだし、
私生活に首を突っ込んで勝手に
傷付くなんて、検討違いも良いとこなのだから。


くろに気付かれないように溜め息を吐く。

「おいしー!これ、好き。」



「ただの、たらこスパゲッティだよ?」


大袈裟なくらいはしゃぐくろ。
可愛くない私の返し。

それでも口一杯にパスタを頬張りそんなことないと主張する目の前の男の子。

愛しさが全身を駆け巡る。

憂鬱な気分になって、
すぐにくろの笑顔でそんな気持ちは
どこかにいってまた1つくろを好きになる要素に変わっていく。




もう私は家で「 お揃い」の物を使っても彼を思い出すことはほとんどない。


くろにであった頃は
物を見る度に彼の顔や彼の声を
思い出した。


けれど今は違う。

きっと家に帰ってココアを注いだとき、
私はこのアトリエの白い食器たちを思い出すことになるのだ。



そして、まだ見ぬくろの「お日様」に嫉妬する。

滑稽だ。


少し前まで真っ白で何もなかった私の頭のなかには今や黒一色しかない。



けれどくろは私の手の内におさまらない、欲しくても手には入らない。


9つも下で
世界的に注目されているアーティストで、容姿も美しい。

それに何より「お日様」の存在が、大きな壁となって私をくろから遠ざけていく。


それなのに会いたくて。


こんなにも苦しくなる瞬間があるのに、次もまた作ってあげようかな、なんて思う自分が酷く......滑稽だ。



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