kuro
玄斗
その日は突然やってきた。
いつもより仕事が早く終わり
その分早い時刻に
ナポリタンの材料を持って
アトリエの下のインターホンを押す。
すると、出たのはくろではなかった。
「はい、えーと......どちらさまでしょうか?」
高い、女の子の声。
凄く可愛らしい声。
誰.............?
あまりの驚きに声を失っていると
「玄斗君の知り合いの方ですか?」
と逆に質問をされた。
私は全身の血が下がるのを感じて
「今日は帰ります。」
と言ってその場を走り去った。
後ろで「え?!」
と驚く声が聞こえたが無視して走った。
無我夢中で走り家につくと玄関に座り込む。
「だ、れ......」
女の子の声だった。
アトリエに人がいた。
女の子、「玄斗君」って、そう言ってた。
私はすぐに思い付く。
あの子がきっと
「お日様」だと。
気づいてからは何故か動揺もひく。
ついにこの日が来てしまった。
魔法に掛けられたように幸せな数ヵ月だった。
くろのアトリエに通うことが楽しみになっていて。
くろと一緒に食べるご飯が嬉しくて。
首から下げた蛇の指輪を握りしめるだけで元気が出た。
「好きだよ。好きなの。
くろが、好きなの。」
言えなかった言葉をやっと、
吐き出した。