kuro

家に入り、今まで捨てるつもりもなかった「お揃い」のものをテーブルに全て出す。

マグカップ、ワイングラス、
お皿、お箸、フォーク、スプーン、エプロン、ランチマット、箸置き、そして指輪。


何を見てもう既に色褪せて写る想い出達に、別れを告げるとすれば今しかないと思った。

全て段ボールにしまい、彼の部屋の一番奥においた。


そして鍵をかける。


穴があいたように感じていた日々に、
ようやく蓋ができた気がした。


今日会えたことは私にとって必要で必然だったようにも、思えた。


一人では何もできなかった。
あの子にであったからこそ、
今がある。


くろ、1つ前に進めたよ。


服の中から指輪を取り出して
そっとオニキスの瞳にキスをした。







それから三日。

新しいマグカップも購入した。
彼の部屋に入りたいとも思わなくなった。
こないだの事もフラッシュバックすることもないだろう。

いつまでも立ち止まっているわけにもいかない。

色々言い聞かせて前を、みる準備運動の感覚でこの前飲み損ねてしまったコーヒーを飲みにショップに並ぶことにした。




今日はカフェラテにしよう。


そんなことを考えていたら、
鞄を物凄い勢いでひかれた。


当然列から外れてしまったので
文句を言おうと後ろを
振り返ろうとしたのだけれど。


強く抱き込まれてしまいそれは叶わなかった。



周囲に居た人々から
きゃあという歓声があがり、
私は羞恥に震えた。




「あの!.....っ!!!!」



文句を言いたくて思いきり息を吸った瞬間。




甘い香りが鼻をくすぐった。




この香りを、私はよく知っている。




凄く、知っているのだ。




間違えるはずがない。



大好きな、香り。














「くろ.......。」


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