kuro


無言でコーヒーショップから連れ去られ、くろも彼と同じようにタクシーを呼んだ。



そして私を引っ張るように
タクシーに乗り込む。

少しだけ無理な体勢になり、
顔を歪めると、
くろの方が痛そうな顔をして、

「ごめん。」

と小さく謝った。


「大丈夫.....。」


それっきり黙りのくろ。

少し緊張してるようにも思えた。
手は逃げないようにするためか
強く掴んだままだった。

そして、見知った
デザイナーズマンションの前で
タクシーを止めると
多すぎるお金を運転手に渡した。
唖然とする私をまたひっぱって
そのままの勢いでエレベーターにのる。




どこにも逃げないのに。

くろとこのエレベーターに乗るときは
くろの背中しか見れないのだろうか。



最初に連れてこられた時の事を思いだし、進歩していない関係に胸が苦しくなった。



そうこうしている間に
くろが片手で器用に鍵を開ける。


鍵が開いたと同時にくろが思いきり
私の手を引いた。

私は当然バランスを崩しくろにぶつかるかたちで受け止められた。



くろの胸に顔を押し付けるように
抱きしめられる。


息苦しさが夢ではないと
実感させる。


しばらくそのままにされ、
本当に苦しくなり背中をたたくと、
ようやく私をそっと自分から離した。




「ごめんなさい。」



どくん、
心臓が派手に音を立てる。


何に対しての、謝罪だろうか。

抱き締めたこと?
あの子が大切な「お日様」だということ?
もう、ここには来るなということ?

わからない。
わからないけど、
続く言葉を聞くことが凄く恐くて。


「や、やだ。」


反射的にそう答えてしまっていた。


するとくろは目を見開いて、
凄く傷付いた顔をした。



何故、何故くろがそんな顔をするの.......?



わからなくて。

わかるのはその顔にさせたのは私ということだけ。

「わからないよ......くろの考えてること、何もわからない。」


自分でも驚くほど消えそうな声が口からでる。



くろの息をのむ声がして、

「違う。
そんな顔、させたかったんじゃないんだ。お願い、こっちをみて....?」


絞り出したような声で
そう言った。


でも、私はみることが出来なかった。

くろを自分勝手な理由で
責めてしまうと思ったから。


そんな姿、くろには見られたくない。



少しの間くろは
自分の方を向くまで待っていたが
諦めたようにそのままの状態で話し出した。






< 46 / 110 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop