kuro



君、とは先程から二人に「那都」と呼ばれている青年のことだ。
自分のことを言われていると理解したらしい彼は、気まずそうにそわそわしながら私の質問に答えた。


とても、簡単に。




「弟....です。」



「お、とうと.....?誰の....?」


一応、確認してみる。


すると、これまた凄く気まずそうに
小さな声で「玄斗の。」と答えた。


くろに弟がいたなんて。

ずっと勝手にしていた予想では一人だと思っていた考えを土がえしするインパクト。


「くろの弟」、
そういわれてからもう一度
男の子を眺める。



くろのようなミステリアスな雰囲気はないし、闇も背負ってる感じもない。
どちらかというと明るく
クラスでも目立つ方に入りそうな子だ。
着ているパーカーも赤色と派手である。
一見するとくろとは似ても似つかないように思えたが、決定的に同じところがある。



容姿だ。
この子の方が背丈は小さく
顔の作りも可愛らしいが、
少しつり目がちの目の形に
漆黒の瞳。


この子の髪の毛が黒色で前髪を流し
もう少し襟足が長ければ。
まさに「高校生時代のくろ」に
そっくりなのではないだろうか。

照れ笑いは目を合わせずに
目線がキョロキョロ
したりするところも似ている。


それによくみれば那都君の耳についているダイアモンドのピアスはくろと色違いのデザインではないか。

見れば見るほどこの子は確かに
くろの弟だと確信が持てる。

言われるまで気づかなかったのが不思議なくらいだが、余裕が本気でなかったのだから仕方ない。

今だって大分大人ぶっているのだから。

そうでもしなければ
何日かかっても整理のつかないまま
進んでいってしまうだろう。

だって誰が「お日様」が女の子ではないことを想像できただろうか。
それだけでもパニックだというのに。

無理矢理この短期間に襲ってきた
とんでもない事実を必死で整理する。

インターホンに出たのはえみりちゃん、
くろはえみりちゃんの彼氏を弟に持つ
那都君のお兄さんでえみりさんはお日様じゃない。
多分そういうことだ。



ということは、
くろの、「お日様」って.......。


胸に浮かんだままに行動する。


「お日様?」

那都君を指差してまた尋ねた。


すると那都君の答えより先に
くろが答えた。

「そう。
那都、命の恩人。
ぼくだけのお日様、」


そう言うくろの表情が
以前くろの過去を少し聴いた時と同じ、
「愛しい」という気持ちが全面に
滲み出ていて。


私は一人勘違いして慌てていたことを
凄く恥ずかしく思ったのだった。







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