kuro
「無いと思う...けど。」
きっと私の顔が怖かったのだろう。
注文したコーヒーに砂糖をいれて物凄い勢いでくるくる回し気を紛らしているようだった。
そしてひとしきり混ぜ終わると
一口のみ、少し考えるようにしてから
口を開いた。
「玄斗が、昔感情が表に出なかったって話、聞いてる?」
少しだけ重たくなる空気。
「聞いてます。
それで、幼い頃は辛かった、お日様がいてくれて本当に嬉しかったって。」
私の言うことに一度頷き話をすすめる。
「玄斗はさ、
小さい頃から俺の前では笑ってた。
俺からすれば本当に優しくて
大切なお兄ちゃんだったんだよね。
だから玄斗にそのままで良いなんて
無邪気にいえたんだけど。
玄斗はあの容姿に雰囲気だから
一部の子に凄く人気があって。
付き合いたいって言われることも
何回かあったよ。
玄斗は付き合うことが何かは
分かってなかったみたいだけど、
付き合ったらその子のことは
彼女という名称がついて
隣にいるんだーって認識はあったと思う。
でも、それだけ。
玄斗は自分でいっぱいいっぱいで、
いつも出来てしまった彼女に困惑してた。」
そこまで喋ると今度はケーキを一口頬張りモグモグしながら私が話を聞いているかを確かめるようにまた頷いた。
「だから、おねーさんとのことを
聞いたときも正直また玄斗の気持ち
無視した形だけの彼女ができたのかなーと思ったよ。
でもさ、話してくうちにビックリした。
玄斗がさ、シルバーアクセ以外の事で
人に会いたいって言うこと無かった。
ていうより、シルバーアクセに関心があったからしょうがなく会っていたようなものだし。
玄斗がね、多分おねーさんと初めてあった日に、俺も玄斗に会ったんだけど。
玄斗、凄く楽しそうで。
楽しそうだね、って聞いたら
また会いたいなぁーって、
呟く感じで。
俺の言葉なんか聞いてないの。
そんなんも初めてだったから。
あー
これは何か起こるって
確信してた。」
「.....くろ。」
私は堪らない気持ちになり
思わずここにはいないくろを呼んだ。
「そっからだよ。
玄斗がさ、会うたびに言うんだ。
おねーさんに指輪をあげたよ。
おねーさんとご飯食べたよ。
おねーさんと、おねーさんと、って。
なんだよ、誰だよ。
名前知りてーよ。
って思うよね、俺的には。
でもわかってる、
玄斗はそうなんだよ。
おねーさんもしかしたら
それで傷ついたかもしれないけど
玄斗は名前知らないこと
気付いてないからね、もしくは
忘れてるから。」
そんなに那都君に話してくれてるなんて。
何故だか泣きたい気持ちが
込み上げてくる。
そして、那都君の言葉に納得する。
「そうかも。
私がくろの家に行かなくなって、
名前を知らないことに気付いたって
言ってた。」
私が真面目にそう答えると
那都君は楽しそうに
笑った。
「玄斗流石だよね。
だからさ、わかったでしょう?
おねーさんが、玄斗の初恋だよ。
あの玄斗が俺以外に笑いかけて、
あんな甘えて、いじけて、
遊びに来なくなったら
屍になったかと思うほど仕事しなくなるなんて、俺の記憶にも玄斗の記憶にも
絶対ないよ。
だから、
おねーさんに玄斗貰って欲しい。
お願い、シマス。」
胸があつくなる。
私は那都君がなんと言おうとくろを
貰うつもりだった。
でも、それだけに。
こんなに考えてくれていて、
応援してくれている。
ついに私の目から涙が零れたのだった。