kuro
那都君とえみりちゃんに別れを告げて
意気込みが消えてしまわないうちに
くろのアトリエに向かう。
マンション入り口の
インターホンを押して
くろの声がすることに
安心を覚えている自分がいて、
そんなにあの日から日が経っていないことを実感する。
ガチャリと扉が
あいて上から声が降ってくる。
「いらっしゃい、おねーさん。」
嬉しそうな声に私まで嬉しくなった。
リビングに入ると既にマグカップが
用意してありちょっとしたお菓子まで
並べられていた。
「どうしたの?」
「なんか、今日豪華だね。」
「ふふ。
おねーさん来たのが嬉しくて。」
「突然来たのに。ありがと。」
「ううん。
昨日徹夜して丁度作業終わったから。
来てくれた方が良かったから。
座ろ。」
顔から火がでそうなのは私だけのようだった。
くろはまた鼻唄まじりにソファーに早々座り隣の空いているスペースを
ポンポンと叩いて催促すらしているのだから。
.....とんだ天然たらしだな。
こんなことで躓いていてはいけない。
今日こそくろと恋人になりたい。
曖昧なラインを越えたい。
よし。
心の中で気合いを入れ直しくろの隣に
座った。
「....おねーさん。」
「何?」
「今日、何か遠くない?」
す、鋭い。
簡単に抱きつかれないようになるべく遠くに腰かけたのだけど。
すると少しくろがいじけたように
そんなことあると断言して
自ら距離を詰めてきた。
無自覚怖い。
ペースを乱されそうになる。
だけど、きっとこれはチャンス。
言ってみようか、言わないか。
ぴったりくっつくと
くろの甘い香りが鼻を掠めて、
身を預けてしまいたくなる。
だけど、今のままではダメだ。
もっと思う存分くろと.....
そういうことしたい、私は。
くろは、違うの?
ダメなら、したいって思わせてやる。
伊達に年とってない、と、思いたい。
私の肩に頭を乗せようとするくろをそっと戻す。
「ダメ。」
「おねーさん?」
がんばれ、
可愛くとも、耐えろ!
「こういうのは、こ、恋人としかしちゃダメなんだよ。」
恥ずかしさで気絶したかった。