kuro
しばし沈黙。
「恋人....?」
少しだけ上擦っているような声。
一気に私の中で不安が膨れる。
「そう、だよ。
私達、違うよね....?」
「.......」
「私は、くろと恋人になりたい。
くろが、
好きだから。
くろは?
私と恋人になりたくない?」
いつもはくろが目をあわせてくるけれど、今は私から目を合わせた。
するとくろは明らかに
動揺したように目をキョロキョロさせた。
「恋人、にならないといけない?」
それは、なりたくないということだろうか。
血の気が引いていく気がした。
「嫌だ?」
「嫌じゃない。
嫌とちょっと違う。」
嫌じゃない?
では何故?
わからない。
わからなくて更にくろを、
見つめ続ける。
「.....怖い。」
「怖い?」
「そう。
恋人になると、皆僕に、サヨナラする。
知らない人も、ほんの少し優しいと思った人も。
僕、今までの人ならサヨナラ我慢できる。
でも。
おねーさんは無理だよ。
サヨナラしたくない。
だったら今のままが良い。
怖いよ、怖いんだ。」
捨てないで、そう言ってるみたいな
くろの表情にはっとした。
くろは多分本当に鈍い。
でもそれは、恋愛感情に関してだけで、人との距離感だったり、人の移り変わりに凄く敏感で臆病だ。
私は、くろの過去を聞いていたくせにそれを忘れていた。
くろはきっと
恋人=別れのイメージが定着してしまっている。
そして所謂恋人同士がするようなことはあまりしてこなかったのだろう。
恋人にきっと
何か酷いことを言われてきたのだと思う。
以前も何を考えてるかわからないと皆に言われたと体を震わせていた。
それでも
「サヨナラ」が怖いと言える
くろが、やっぱり愛しい。
私とサヨナラしたくないなんて、
そんなこと一生言われないと思っていたのに。
嬉しくて愛しくて、引いた血の気が全
身に戻っていくのがわかる。
今すぐこの子を抱き締めたい。
自分でダメと言った癖に
私はくろに思いきり飛び付いた。
「サヨナラなんて、言わない。
言いたくない。
くろとずっと一緒にいたい。
でも
皆と同じ関係じゃ私は嫌。
くろが私の彼氏になってくれたら、
私はくろを堂々と独り占めできるから。
もし、くろのことが他に好きな人が現れても、喧嘩しても、くろの彼女だって。
それだけで特別なんだって。
好きだから。
サヨナラしたくないから。
だから、くろの彼女にして欲しいの。」
話がわり更に回した腕にぎゅうと
強く力を込めた。
そんな私にそっと腕を回したくろ。
耳元で小さな声。
「それ、狡い。
ダメって、言えないよ
...........光。」