檻の中
人間は動物と違って、考えずにはいられない生き物だ。
なぜ自分が監禁されたのか、これからどうなるのか──そんなことを繰り返し考えていた。
狭苦しい檻に閉じ込められ、監視され続けている。
犯人の狙いは何なんだろう。
こんなふうに監視するためだけに、わたしを誘拐・監禁したとは思えない。
何らかの手はずが整ったら、犯人は目の前に現れると確信していた。
着実に“そのとき”は近づいている……。
そう思うと、恐怖と緊張で身体が震えて仕方なかった。
非情にも時間は流れていく。
空腹に耐えきれず、残っていたパンを全部食べてしまった。
腐る前に飲んでしまえと、理由をつけて牛乳も飲み干した。
あっと言う間に食糧が尽きる。
食べたばかりなのに、わたしは次の配給がいつになるか心配になった。
もしかしたら、そんなものは二度とないのかもしれない……。
自分の軽率な行動を後悔して、軽い吐き気を覚えた。
食べて、排泄して、眠る。
今のわたしは完全に動物と同じだった。
情けないけど、生理的欲求は抑えることが出来ない。
自己嫌悪に陥りながらも、わたしは死ぬまで同じことを繰り返すのだろう。
“そのとき”は思いの外早く、前触れもなくやって来た。
扉が音を立てて開いた瞬間、わたしは天敵から身を隠す小動物のように檻の隅に移動した。
身を縮めるようにしてうずくまり、こちらに近づいてくる靴音を絶望的な気分で聞いていた……。