檻の中
「鋭い質問だね。さすがジュリエット。オークションは数年前からだけど、ここが出来たのは十四年前だよ。僕が生まれる少し前だ」
源ヒカルはそう言うと、わたしの回りをゆっくりと歩き始めた。
十四年前……そんなに昔から存在していたなんて。
もしかして、ヒカルと関係があるのだろうか?
何となくそんな予感めいたものを覚えた。
「ジュリエットだけに、特別にここの誕生秘話を教えてあげるよ」
首を少し傾けて微笑む彼は、何も知らない人が見れば無邪気な少年だと思うだろう。
いや、実際無邪気と言えばそうなのだが……。
「へぇ。ありがたいわね。わたしはヒカルくんの特別なんだ?」
年上の余裕を見せようと、大人ぶった口調を装う。
無理しなくていいよ、とヒカルが笑った。
「僕はね、人の声音や表情や目つきで、その人の本心とか本性が分かるんだ。ジュリエットは、僕のことをまだ信じてない。それに、危険な子供だと思ってるね」
いきなり顔を覗き込まれ、思わず退いてしまう。
情けないけど図星だった。
わたしは口をつぐみ、ヒカルの話を黙って聞くことにした。
「ここの創立者は、当時の総理大臣なんだ」
あまりにも素っ気なく言うので、わたしは危うく聞き流すところだった。
総理大臣が創立した……!?
まさか、そんな国のトップが関わっていたとは思いもよらなかった。
しかしよく考えてみたら、こんな巨大な地下街など国が関わっていなければ創るのは不可能だろう。
「十四年前の総理大臣、知ってる?」
「えぇと……」
わたしは考えるふりをして口ごもった。
当時二歳だったから覚えてないなんて、言い訳だよね……。
「ごめん、分からない」
「歴代総理の中でも地味だし、任期も短かったからね」
仕方ないよ、とヒカルがフォローをしてくれる。
こんなに優しいのに、あっさりと人を殺すと言うギャップが凄まじい。
「源太郎。それが、当時の総理大臣の名前さ」
「源……。あっ」
まさか、と言う目でヒカルを見つめる。
彼は曖昧な笑みを浮かべて、首肯した。
「そう。僕の、お祖父ちゃんだよ」