檻の中



 衝撃の事実に、わたしは唖然としてヒカルを見つめた。


 元総理大臣の祖父が創立者だから、子供の彼でもオークションに参加できると言うわけか。


 では、なぜ外の世界を知らないのだろう?


 新たな疑問が沸いた。



「政治資金を得るために、祖父は大企業や資産家たちから支援を受けていた。とにかく、政治家って言うのはお金がかかるみたいなんだ」


 ヒカルが大人びた顔つきで、わたしに説明する。


 政治家の汚職事件とかも、そう言う裏事情があるからだろうな……。



「連中のバックアップを受けて、祖父は総理大臣の座に就いた。……もちろん、話はそれだけで終わらない」


 一呼吸置くと、ヒカルは再び口を開いた。



「連中は祖父に見返りを要求した。最初は慈善事業として、孤児や家出した少女を政府が保護していたんだ。それに連中が目をつけ、少女を中心に売り飛ばすいわゆる“人身売買”行為が始まった」


「そんな……」


 資金を援助する代わりに、非人道的な見返りを総理大臣に要求したのだ。


 なんて悪どい人たちだろう。


 でも、だからと言って……



「お祖父さんもお祖父さんよ。そんな酷いことに関わっていたなんて!」


 思わず言ってしまったが、ヒカルの顔を見てハッとした。


 どことなく悲しげな微笑を浮かべていた。



「ご、ごめん」


「もちろん、祖父も葛藤がなかったわけじゃないようだよ。でも、連中は抜け目なかった。祖父の気が変わらないようにと、初孫を人質にしたんだ」


「それって……ヒカルくんのこと?」


 遠慮がちに訊ねると、彼はため息をついて肩をすくめた。


 わたしはやっと、ヒカルが外の世界を知らない理由に納得がいった。


 可愛い初孫を人質にとられては、言いなりになるしかなかったのだろう。


 ヒカルもまた、被害者だと言うことか。


 わたしは複雑な思いに駆られた。


 大人たちの身勝手な都合によって虚構の世界に閉じ込められ、人質として生きているヒカル。


 彼自身に罪はなく、ほんの少し可哀想になってしまう。


 ここでの行動に制限はなく、殺人行為すら許されているとしても……。



「お祖父さんはご健在なの?」


「うん。タウンの病院のVIPルームにいるよ。寝たきりだし、話すことも出来ない状態だけどね」


「……そう」


 わたしは何も言えず、黙って視線を落とした。



「この話は、数年前に祖父から聞いたんだ。ショックだった……。だって、ここが僕の現実だったんだから。本当の世界があるなんて、考えてもみなかったよ」


 ヒカルは額に手を当てて、苦悩する表情を見せた。


 もうそれを演技とは思わなかった。


 この子は苦しんできたんだ……ずっと。



「それからオークションが開設されて、僕も特権で参加できるようになった。女の子を痛めつけるたびに、心がスカッとしたよ」


「……」


 本来なら残酷な言葉に聞こえるだろうが、彼の生い立ちを知った今、わたしは責める気持ちにはなれなかった。


 なぜなら、ヒカルはこの世界の“常識”しか知らないのだから。





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