檻の中



 でも、そんな話を何でわたしに……?


 今まで聞き入っていたが、漠然とした不安を覚えた。


 無意識にヒカルから距離を取っていた。



「僕のこと、信じてくれる? ジュリエット」


 ヒカルが靴音を立てながら迫ってくる。


 い、いきなりそんなこと訊かれても……。


 じっと見つめられて、わたしは頷かざるを得なくなった。



「うん。信じるよ」


「本当に? ありがとう。じゃあさ……」


 声のトーンを落としたかと思うと、ポケットに入れていた手をすっと出した。


 一瞬ナイフでも握られているのかと身構えたが、その手を肩に置かれた。



「僕と一緒に逃げよう」


 プロポーズするかのような真剣な口調で言う。


 逃げるって……外へってことだよね?


 そんなことが可能なのだろうか。



「僕はこの世界の裏側を知り尽くしている。どこから逃げるべきだとか、どこに監視カメラがあるかとか全てをね」


 答えないわたしに言い聞かせるように、彼が力強い口調で言った。


 ……本当なのだろうか。


 だったら、一人でも逃げられるのでは?


 そんなわたしの心中を見透かしたように、ヒカルが自嘲気味な笑みを見せる。



「僕は外の世界を知らないから、一人で逃げるのが心細いんだ。笑っちゃうだろ?」


 わたしを案内役として、道連れにするつもりなのか……。


 味方なのか敵なのかまだ完全には判断を下せないが、唯一無二のチャンスのような気がしていた。


 ヒカルの誘いに乗るべきだろうか?


 すぐに首を縦に振るのは危険な賭けだ。



「……上手くいく自信は?」


「ある。ただし、厄介な連中に見つからなければの話だけどね」


 ヒカルは眉を上げて、首をすくめた。



「奴らは武器を持ってるから要注意だ。血が流れるかもしれないから、君にも覚悟してもらわないと」


「え……」


 わたしは自分が殺される想像を巡らせ、絶句した。


 命を賭けて逃げるか、この偽りの世界に留まるか。


 二つに一つ……。


 わたしはにわかに緊張して、大きく息を吸い込んだ。



「一つだけ、条件があるの」


 ヒカルが薄い笑みを浮かべたまま、首を傾げるようにしてわたしを見る。





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