檻の中
「何だい?」
「裕太……、わたしの彼氏も一緒じゃないと嫌」
一人で逃げたら絶対に後悔することが目に見えている。
生きるのも死ぬのも、裕太と一緒がいい。
でも、今の彼はリンに洗脳されている……。
わたしと逃げたいとは思っていないかもしれない。
「あー、リンちゃんのとこのロミオだね。彼女好みに肉体改造されてる王子様」
「知ってるの!?」
目を見開くわたしを見て、得意そうに笑う。
「どこにいるかもね。でも、リンちゃんのことだから危険な罠が張ってあるだろうなぁ」
ヒカルは楽しげに声を弾ませると、わたしをチラリと見やった。
「僕一人の力では足りないから、君にも手伝ってもらうことになるよ。オーケイ?」
「……う、うん」
少し躊躇しながらも、裕太のためならと頷く。
「敵を殺すことになるかもよ」
「えっ?」
「殺らなきゃ殺られる。覚悟がないなら、条件は飲めない。悪いけど」
ヒカルが大人ぶった顔つきになり、わたしに背中を向ける。
……殺人をしろってこと?
いくらこんな無法地帯でも、自ら人の命を奪うことなどしたくない。
この期に及んでこんなことを考えるわたしは甘いのだろうか?
「そんなに思い詰めた顔をしないでよ。大丈夫、正義のための殺人は許されるから」
「……」
ウインクをするヒカルに返す言葉が見つからない。
そう言う問題じゃないんだけどな……。
「じゃあ、準備が整ったら迎えに来るから。バイバイ、ジュリエット」
笑顔で手を振ったかと思うと、彼の後ろ姿はすでに遠ざかっていた。
結局、ヒカルのペースで話が進んでいった気がする。
わたしたちは果たして上手く逃げられるのだろうか……。
イシザキを裏切った先に、どんな結末が待っているのか。
恐ろしすぎて、わたしは考えるのを止めた。