檻の中



 膝を抱えてじっとしていたが、空腹と睡魔に襲われた。


 灰色の夢を見た。


 殺風景の中、わたしは佇んでいた。


 幾つもの声が通り過ぎていく。


 みんな、わたしの名前を呼んでいる。


 助けて……ここは寒いの。


 それに、お腹もペコペコ。


 わたしは姿の見えない彼らに必死に訴えた。


 しかし、声が出ない……。


 そのうち、足音は遠ざかっていき、静寂が辺りを支配した。


 まるで人形になったような気分だった。


 自分では、手も足も動かせない。



 手足を切り落とされたのではないだろうか。


 ふと、そんな悪い想像が頭の中を巡り、わたしはゾッと身体を震わせた。


 白くぼやけていた視界がはっきりして、見慣れたバスルームの光景が広がる。


 現実に引き戻されたわたしは、身体を起こそうとして声を上げた。



「やだっ……何で!」


 革の拘束具によって、手足の自由を奪われていた。


 一体、誰がこんなこと……。


 わたしはそこまで考えて、一人しかいないことに気づいてため息をついた。


 イシザキ……あんたは何者なの?


 ふと視線を移した先に、ペット用の皿に白い液体に茶色くふやけたものが浸っていた。


 わたしはゴクリと生唾を飲み、皿に顔を近づけた。


 ふんわりとミルクの匂いが鼻をかすめる。


 わたしは我慢できずに、舌先でミルクをすくった。



「……美味しい」


 茶色くふやけたものの正体はコーンフレークだった。


 空腹のあまり、わたしは犬猫のように鼻先を突っ込むようにして用意されたエサを平らげた。



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