檻の中



 時間の感覚がなくなった。


 いつも眠っているか、頭がぼんやりとした状態だった。


 目を覚ますたびに、ふやけたエサの入った皿が置かれている。


 イシザキはわたしの前に姿を現さなかった。


 それに何の狙いがあるのか、もはや考える余裕もなかった。


 最初はシャワーを浴びて清潔に保とうとする努力をしていたが、それももう止めてしまった。


 無気力──今のわたしを表すなら、その言葉がピッタリだと思う。


 とにかく眠くて、起きていても生欠伸をしてばかりだ。


 多分、エサに睡眠薬を盛られているのだろう。


 今までは抵抗があったが、飼われることに対して何の疑問も持たなくなった。


 ただ与えられるままに生きることが、こんなにも楽だったなんて。


 わたしは人間としての尊厳を失いつつあった。


 こんな堕落した生活を繰り返していたら、本当にダメになってしまうかもしれない。


 頭の中で一瞬危機感を覚えるけど、わたしはすぐに思考を放棄して眠りの世界へ逃げた。


 いっそのこと、このまま目を覚まさなければいいのに……。


 いつの間にか涙が流れていたが、何で泣いているのかさえ分からなかった。



「……おやおや。一億円のダイヤモンドが、薄汚い石ころになっているではありませんか」


 嘲笑混じりの声が頭上から降り注いだ。


 この声は……確か。


 わたしはだらしなく寝そべったまま、ギョロギョロと眼球を動かした。


 きっと、不気味な生き物に見えるだろう。


 そうだ、思い出した……。


 この男の名前はミスターB。


 爬虫類のような目を細めながら、薄笑いを浮かべている。


 ……何でここにいるの?




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