檻の中



 死にたくない!


 少なくとも、こんな所でこんな奴に……。


 わたしは死を拒絶し、生への渇望を抱いた。


 薬で朦朧としていた頭も、恐怖のあまり活発になっていた。


 手足さえ自由だったら、ここにある手術用の器具で応戦するのに──。


 自分を守るためなら、相手の命を奪うこともいとわないだろう。


 わたしはそこまで追い詰められていた。


 じわじわと、刃が皮膚に食い込む。



「く……っ」


 わたしは歯を食いしばり、今にも上げそうになる悲鳴を堪えた。


 恐る恐る顔を動かすと、胸の辺りにうっすらと血が滲んでいた。


 焦らしてこちらをパニックに陥れ、いきなり刃をざくりと立てるつもりなのだろう。


 何かうるさいと思ったら、自分の荒い息遣いだった。


 涙が頬を伝い、首筋を流れていく。



「ご家族に、言い残すことはありますか?」


 まるで神父のように穏やかで、高潔な口調でミスターBが言う。


 わたしは激しく首を振りながら、命乞いの言葉を口にした。



「嫌……。お願いだから、助けて!」


 わたしも映像の中の少女たちと同じように、泣きながら哀願していた。


 無駄だと分かっていても、言わずにはいられない。


 助けて、と……。



「それでは、始めましょうか。時間もないので、一瞬で終わらせてあげますよ」


 唇を歪めて笑うと、ミスターBが気合いを入れるように息を吸い込んだ。


 ギザギザの刃がわたしの心臓に狙いを定めたのが分かった。


 次の瞬間、風を切る音とともにブチッと言うおぞましい音が聞こえた。



「……ひぎゃあぁああああッ!!」



 耳をつんざく絶叫が手術室に響き渡り、わたしは首をすくめて恐怖に固まった。




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