檻の中
そこは白い壁に囲まれた簡素な部屋だった。
ベッドと薬品棚とパイプ椅子が並んでいる。
どことなく学校の保健室のような印象で、わたしは少し拍子抜けした。
男が役目を終えて部屋から出て行く。
「ここは……?」
「ここは、身体検査を行う場所よ」
カーテンの陰から白衣姿の女性が現れて、ニコリともせずに言った。
黒縁眼鏡をかけた、化粧気のない顔立ち。
三十代前半と言ったところだろうか。
まさかこんな場所に女性がいるとは思わず、
わたしは水を得た魚のように元気になった。
「あのっ……わ、わたし、いきなり誘拐されたんです! 助けて下さい!」
女性にすがりながら必死に訴えた。
しかし、わたしの手はピシャリと叩き落とされてしまう。
「気安く私に触るんじゃない。206番」
白衣の女が冷ややかな目をして、突き放すような口調で言った。
──206番?
訝しげに眉をひそめるわたしを見て、女は表情を変えることなく言葉を重ねた。
「アナタの出品番号よ。ほら、時間がないからさっさと来なさい」
「出品番号って……何ですか?」
カーテンの奥に消えた女を追いかけて行くと、そこは病院の検査室だった。
検査台に計測装置、医療器具などが処せましと並んでいる。
わたしと変わらないくらいの背丈の人体模型
が不気味だった。
女は椅子をくるりと回し、こちらを見た。
「私はドクターの坂井よ。これからアナタの身体検査を行います」
眼鏡を指で押し上げながら、事務的な口調で言う。
確かに胸元の名札には『坂井』とある。
「……どうしてそんなことをするんですか?」
「私は無駄話が大嫌い。黙ってこの検査着に着替えなさい」
坂井はわたしの質問を跳ねのけると、病院で見かけるような青い検査着を投げつけてきた。
そして背を向け、机の引き出しからカルテを取り出した。
とりあえず、殺されることはなさそう……。
わたしは少し安堵しながらも、訳が分からずその場に立ち尽くしていた。