檻の中
すっかり筋肉質になった裕太の姿を目の当たりにして、わたしは嬉しさよりも当惑を覚えた。
視線を下に向けて、唇を噛みしめている。
その口元にはアザが出来ていた。
殴られたのかな……痛そう。
わたしは同情しつつも、それ以上声を上げることが出来なかった。
“もう俺に話しかけるな”
冷たい声と目つきを思い出し、涙が込み上げそうになる。
裕太はもう、わたしのことなんて好きじゃなくなったのかな……。
「そこに座らせて」
七福神の指示通り、男は淡々と裕太を椅子に座らせる。
後ろ手に拘束され、鎖で繋がれた彼は黙って言いなりになるしかないようだ。
目の前に裕太がいるのに、何も言えない臆病な自分が情けなかった。
七福神はわたしをチラリと見て、口元を歪めるようにして笑った。
「このロミオはお嬢さんの恋人だったね。涙のご対面というわけでもなさそうだ」
「……」
わたしは何も言えず、テーブルに視線を落とした。
七福神がサイコロを手に取り、わたしに突き出す。
「いいか、よく聞くんだ。このサイコロを振らないと……ロミオは死ぬ」
「え?」
虚を衝かれて、思わず七福神と裕太を交互に見やる。
し、死ぬって……どういうこと?
「脅しではないぞ。私は嘘をつかない。お嬢さんがサイコロを振ることで、ロミオは救われるのだ」
静かな物言いが逆に恐ろしさと迫真を増す。
七福神の真剣な目を見ているうちに、彼が裕太の首を切り落とすビジョンが脳裏に浮かんだ。
この男ならやりかねない……。
わたしは覚悟を決めて、サイコロを振った。
「……3だな」
七福神が赤インクで三番目のマスに印をつける。
『指の骨を折る』……!?
初っぱなからヘビーな内容に、わたしは息を飲んだ。
「うむ。これなら大したことないから、お嬢さんが受けてみるかね?」
「え……。い、嫌っ」
身を引こうとするが、七福神に手を掴まれてしまう。
老人のくせに力が強く、手を抜こうとしてもびくともしない。