檻の中



 部屋の扉が開いて、七福神が戻ってきた。


 手に大きな鋏を持って……。


 あれなら骨をも砕く威力があるだろう。


 わたしは絶句したまま、裕太の後ろに立った七福神を見つめていた。


 やめて……。



「やめて! ショックで死んじゃうわ」


 気づいたら立ち上がって叫んでいた。


 指を切り落とすなんて、極道の世界でしかあり得ないと思っていたのに。



「ショックで死ぬ? ハハハ……それならそれで、ゲームオーバーだな」


 七福神は取り合わず、鋏で狙いを定めている。



「やめて! お願い」


「座ってろ、萌」


 裕太が顔を上げて、わたしを睨みつけた。


 その額にはじんわりと脂汗が浮かんでいる。


 あぁ……わたし、萌って言う名前だったんだっけ。


 裕太の口から自分の本名を聞いた瞬間、胸がギュッと締めつけられた。


 生きて帰りたい……裕太と一緒に。



「ほら、ロミオの言う通りだぞ。痛い目に遭いたくなければ、傍観者としての立場を貫くのだ」


 七福神がわたしに歪んだ笑みを向ける。


 どうすればいいの……!


 この期に及んで、まだ決心がつかない自分が情けなくなった。


 行動しなければ裕太は……死んでしまうかもしれない。


 わたしは椅子から腰を浮かせたまま、激しい葛藤に苛まれていた。



「いいか、坊主。歯を食いしばれ。大人でも、この拷問には泣き叫ぶ」


 七福神が低い声で言うと、裕太の顔色が青ざめた。


 鋏が開く音がハッキリと聞こえ、鳥肌が立つ。


 裕太が大きく深呼吸して、目を閉じた。


 まるで悟りの境地を切り開いた修行僧のように──。



「やめて……。やめて、やめて、やめてーッ!」


 わたしは激しく首を振りながら、無意味な言葉を連呼した。


 突如として、身の毛もよだつおぞましい音が耳の奥に響いた。



「ぎゃあああああッ!!」


 裕太の口から聞いたこともない絶叫が発せられ、わたしは凍りついたように固まった。


 七福神が息をつきながら、ゆっくりと何かを持ち上げた。


 ──指だった。


 裕太の指は無惨にも切り落とされてしまったのだ。


 酷い……そんな……!


 身をよじりながら絶叫し続ける裕太の姿を見ているうちに、恐怖と怒りで頭がクラクラしてきた。



「コイツは後でピラニアに喰わせよう」


 七福神は悪魔の笑みを浮かべながら、裕太の指を上着のポケットに押し込んだ。




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