檻の中
誰だろう、と考える間もなく七福神がゆらりと動いた。
わたしはとっさに身を引き、その場から離れようとした。
「ハァ、ハァ……貴様、吹き矢に毒を塗ったな?」
七福神が青白い顔で、ヒカルを睨みつける。
苦しそうに肩で息をしながらも、鋏を振り上げようとしていた。
その先にいるのは裕太……!
「危ない!!」
わたしの声と同時に、鋏が裕太めがけて降り下ろされる。
危機一髪で裕太は身をよじって攻撃をかわしたが、背中に鋏の先端が当たり呻き声を漏らした。
わたしは無我夢中で七福神に飛びつき、鋏を奪い取った。
「ヒカルくん、お願い! 裕太を自由にして」
「どうしよっかなぁ……?」
「ヒカルくんッ!」
「嘘だよ、嘘。僕は約束を守る男だ」
ヒカルはニッコリすると、手早く裕太の拘束を外した。
自由の身になった裕太だが、しばらく椅子に座ったまま放心していた。
「裕太……。一緒に逃げよう?」
わたしは裕太の顔を覗き込み、哀願した。
彼の瞳が揺れ、ゆっくりと動く。
「ジュリエット……危ない!!」
ヒカルの声に振り返ると、鋏が目の前に迫っていた。
悲鳴を上げる間もなく、それが鼻先をかすめる。
ヒカルが七福神に体当たりをして、わたしを守ってくれた。
二人は地面に転がり、揉み合った。
そして、素早い身のこなしで七福神が鋏を前に繰り出す。
「私と一緒に地獄に行かないか?」
そう言った後、鋏を躊躇なくヒカルの喉に突き刺した。
ぐっ、と蛙が潰れたような声がヒカルの口から漏れる。
鋏を抜き取ると、首から勢い良く血が噴き出した。
「ヒカルくんッ……!」
肌が粟立ち、わたしは膝から力が抜けそうになった。
どうして……?
一緒に逃げようって言ってくれたのに。
外の世界に憧れていた、純粋な少年……。
罪のない少女たちを恐ろしい目に遭わせた罰なのだろうか?
変わり果てたヒカルの姿に、涙が溢れてきた。
「……逃げて。僕の分まで、生き延びるんだ」
「ヒカルくん……」
「や……く……そ、くだよ?」
微かな笑みを見せた後、ヒカルは血をゴボッと吐き出した。
苦しそうに喘ぎながら、胸を上下させている。
頭がガクリと傾き、手が力なく滑り落ちる。
そして──ヒカルは動かなくなった。
呆気ない死に様に、現実感が湧かない。