檻の中



 人間ってあっさり死ぬんだな、と言う感想が真っ先に浮かんだ。


 さっきまで喋って動いていたのに……。


 ヒカルの死体の少し離れた所に息を荒くしながら横たわる七福神が気になった。


 毒に苦しんでいるようだが、この老人は不死身なのではないかと思えてくる。


 即効性のある毒でないのが悔やまれる……。



「裕太、どうしたの? 危ないよ」


 七福神の傍らに膝をつく裕太に、わたしは慌てて声をかけた。


 ポケットに手を突っ込み、取り出したのは……切断された自分の指。


 あぁ、そうか。


 わたしは何も言えず、神妙な面持ちで視線を落とした。


 裕太が七福神から離れようとした瞬間だった。



「……うわっ!」


 七福神に足首を掴まれた裕太はバランスを崩し、地面に倒れ込んだ。



「裕太っ!?」


 助けようと近づくわたしの目に、ゾッとするような光景が飛び込んでくる。


 裕太の足首から手を離した七福神の手に、毒矢が握られていた。


 そんな……!


 わたしは愕然として、その場に座り込んだ。



「ロミオ……私と一緒に死んでくれ。独りで死ぬのは御免だ」


 顔面蒼白の七福神が歪んだ笑みを浮かべる。


 指を失った挙げ句、毒に侵され苦しむなんて……。


 わたしは荒い息遣いをする裕太に近づき、その頭を膝の上に乗せた。



「裕太っ……しっかりして!」


 必死に呼びかけるが、ぐったりして反応がない。


 顔から血の気が引き、生気が失われていく。


 もうこれ以上、苦しませたくなかった。


 わたしは涙を流しながら、裕太の頭を優しく撫でた。


 もし、裕太が死んだら……。


 わたしは毒矢を見つめ、ゴクンと唾を飲んだ。


 あれで死ぬしかないのかもしれない。


 無意識に吹き矢に手を伸ばしていた。



「俺がいない間にこのザマか」



 冷笑じみた声が耳に届き、ドキリとして動きを止めた。


 この声は……忘れもしない。


 わたしは固まったまま、後ろを振り向けずにいた。


 どうしてイシザキは戻ってきたのだろう。


 わたしを……殺しに来たの?




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