檻の中
やっとの思いで振り返ると、そこにいたのは見慣れた姿のイシザキではなかった。
頭に包帯を巻き、片腕は三角巾で吊るされていた。
トレードマークのサングラスは、眼帯に変わっている。
顔には幾つもの傷や痣が出来ており、高めの鼻梁は曲がっていた。
あの綺麗な顔立ちは見る影もなくなっている。
やや切れ長の漆黒の瞳から表情をうかがうことは出来ない。
大怪我を負ったイシザキを見て、わたしは息を呑んだ。
「何が起きたの……?」
「老いぼれだと思って、油断したのが運の尽きだ」
ニヒルな笑みを唇の片端ににじませながら、イシザキは横たわる七福神を一瞥した。
え……どういうこと?
話が見えず、首を傾げる。
しかし、今はそんなことより……。
「お願い、イシザキさん! 裕太を助けて。毒矢が刺さったの……」
わたしは涙声で訴えた。
顔色を失っている裕太を見下ろし、唇を噛みしめる。
イシザキは無言で近づいてくると、自由の利く手をヒカルの上着のポケットに突っ込んだ。
そして、小さなカプセルのようなものを取り出す。
「噛まずに飲め。分かったか?」
イシザキは片膝をつくと、裕太の口に無理やりカプセルを押し込んだ。
「……それは何?」
「解毒剤だ。源の坊主は自分用にいつも持ち歩いていた。……哀れな最期だな」
首を裂かれたヒカルの死体にチラリと目をやり、吐き捨てるように言う。
そんなイシザキを見て、わたしは分からなくなった。
あなたは敵なの? それとも味方……?
カプセルを飲み込んだ裕太は、心なしか回復の兆しを見せ始めている。
「ヒカルくんが言ってた意外な人って、あなたのことだったのね」
「爺に痛めつけられて気絶していた俺を見つけ、手早く介抱した奴に礼を言うべきだな」
イシザキの目つきが少しだけ和らぐ。
そして、唐突に七福神の脇腹に蹴りを喰らわせた。