檻の中
わたしたちはイシザキの後について、人気のない廊下を慎重に歩いた。
誰かに──特に、職員に見つかったら面倒なことになる。
誰にも会いませんように……。
イシザキがカードキーを挿し込み、地下道に通じる扉を開ける。
薄暗い中を早足で歩きながら、緊張と不安で高鳴る心臓の音を感じていた。
とうとう、終わりに近づいてるんだ……。
生きるか死ぬかの違いで、結末も変わってくるだろうけど。
「あれ? 出口は向こうじゃ……」
右側に曲がるイシザキの背中に声をかけた。
そこには、道らしい道などない。
「出口を出たら、タウンに出てしまう。人目についてゲームオーバーだ」
「……あ」
返す言葉もなく、わたしは肩をすくめた。
確かにタウンから出るには危険すぎる。
イシザキが靴で地面の土を掻き分けると、四角いマンホールみたいな扉が現れた。
「ふッ……!」
片手でマンホールを引き上げる。
細身なのに、なかなかの怪力の持ち主だ。
中を覗き込むと、さらなる地下へと続く梯子が伸びていた。
「何か……得体の知れない生物が潜んでそう」
「それでも、人間よりはマシだ」
わたしの呟きに、イシザキが素っ気なく応じる。
人間より怖いものはない、と言うけど……。
そうこうしているうちに、イシザキがペンライトを口にくわえながら梯子を降りていく。
片手なのに、凄い俊敏さだ。
「俺が先に行くよ。念のため」
「あ、うん……」
裕太がわたしの肩をそっと押して、マンホールの縁に腰をかける。
筋肉質になったからか、指を怪我しているのにも関わらず、いとも簡単に梯子を降りていく。
一人残されたわたしは考える間もなく、梯子を慎重に降りていった。
古めかしく、ギシギシと音を立てる。
やっとの思いで地下道に降り立ったわたしは、地面のぬかるみに足を取られてしまった。
「きゃあッ!」
「大丈夫か、萌」
近くにいた裕太が支えてくれた。
がっちりとした腕と胸板の感触に、思わずドキリとしてしまう。
「あ、ありがと……」
「おう……」
わたしたちは照れ臭くなり、そそくさと離れた。