檻の中
地下道はわたしの身長すれすれの高さで、何となく錆びついた匂いがしていた。
イシザキと裕太は中腰の体勢で、前に進まなければならない。
所々に水溜まりがあり、跳ね上がった水が剥き出しの足にかかる。
だけどわたしはなりふり構わず、早くここから出たい一心でひたすら足を動かした。
「チッ……。汚ねぇな」
イシザキの声に顔を上げると、目の前に灰色っぽい溜め池が広がっていた。
下水だろうか……。
ゴミや白いものが浮かんでいる。
ムッとくるような臭いが鼻孔を刺激し、わたしは吐き気を催した。
「汚物まみれになるのはごめんだぜ。俺は引き返す」
「な……! 約束が違うだろ?」
イシザキの冷淡な言葉に、裕太が詰め寄る。
よく考えたら、この男が排泄物の溜め池を泳ぐわけがない。
わたしだって嫌なのだから……。
「ここからはお前たちだけで行け。俺は通常ルートで行く。運が良ければ合流できるかもな」
「おい、待てよ!」
「おっと。餞別にこれをやろう」
イシザキはペンライトを裕太に押しつけると、さっさと踵を返して行ってしまった。
残されたわたしと裕太は気まずい沈黙の中、互いの顔をチラチラ窺っていた。
先に口を開いたのは、裕太の方だった。
「俺たち、置き去りにされた?」
その冗談めかした口調に、以前の彼の片鱗が見られて嬉しくなる。
「……うん、そうみたい」
わたしも自然に笑い返した。
こんな状況なのに、笑えるなんて……。
でも、裕太との距離が少し縮まったような気がした。
やっぱり、わたしには裕太が必要なんだと改めて思う。
「……で、どうする? 俺たちにはこのルートしかないみたいだけど」
裕太がそう言って、薄汚い溜め池に視線を移す。
その中に身を沈めた自分を想像するだけで虫酸が走った。
でも……
「やるしかないよね」
「……おう。俺もそれしかないと思う」
覚悟を決めたわたしたちは、お互いにどちらからともなく手を繋いだ。
少し汗ばんで湿った手……。
もうこの手を離したくないと、強く思った。