檻の中
「じゃあ、俺から行く」
「う、うん。気をつけて」
裕太から渡されたペンライトで、薄暗い溜め池を照らす。
不気味な色合いに、浮遊する謎の物体……。
裕太は縁に腰掛け、恐る恐ると言った様子で足を入れた。
そして、ゆっくりと身を沈めていく。
「結構深いな。俺の胸辺りまであるぞ……」
顔をしかめながら呟く裕太。
わたしに向き直ると、両手を広げた。
「おいで、萌。俺が支えてやる」
「う、うん……」
気が進まないけど、自由への道を切り開くための辛抱だと自分に言い聞かせる。
足を入れると生温い水がまとわりつき、謎の浮遊物が太ももに当たった。
裕太の胸にしがみつく形で、わたしは溜め池の中に身体を沈めた。
「うう……臭いし、気持ち悪い……」
「頑張れ。俺にしっかり掴まってろよ?」
「うん」
言われるまでもなく、わたしは裕太の首に両手を回してしがみついた。
ゆっくり慎重に前へと進んでいく。
海藻のようなぬめりのあるものが足に絡みつき、不快感が最高潮になる。
早く……お願い、早くして!
わたしは裕太の肩に顔を伏せたまま、歯を食いしばって我慢した。
そのとき、何かに足首を掴まれた。
「……きゃあっ!」
「どうした?」
悲鳴を上げるわたしに驚き、裕太が顔を覗き込んでくる。
誰かがわたしの足首を掴んで、引っ張ろうとしている……。
「いやぁっ! 離してッ」
「うわっ。萌、暴れるなって! 落ち着け」
裕太の言葉も耳に入らず、パニックになったわたしは必死に足をばたつかせた。