檻の中




 強い力で引っ張られ、わたしの身体は沈みつつあった。



「誰かがわたしの足を……、助けて!」


「しっかり掴まってろ! くッ……」


 裕太がわたしの身体をしっかり抱きしめようとしてくれるが、恐怖と痛みで混乱に陥った。


 こんな薄汚い水を顔につけたくない一心で、わたしは何者かの手をもう片方の足で蹴った。


 こんな所に人間が潜んでいるはずがない。


 じゃあ、何がいるの……?


 ゾッと背筋が冷たくなる。



「もう少しだ、頑張れ!」


 裕太に励まされながら、半分もがくようにして前に進んだ。


 やっと小さな扉のある出口にたどり着き、わたしたちは安堵の息をついた。


 足首を見ると赤くなっていた。



「ほら、見て……。誰かがわたしを引っ張ろうとしたの!」


「海藻とかじゃないの?」


「違うもん! あれは絶対、人間の手だった」


 興奮気味に言うわたしに、分かった分かったと苦笑いする裕太。


 絶対に分かってなさそう……。


 ふいに、濁った水面下に黒々としたものが見えた。


 髪の毛……?


 目を凝らすと、それは人間の頭部だった。


 ゆらゆらと水面に浮かんだそれは、二つの目玉でわたしをじっと見つめていた。



「きゃああああっ!!」


 全身が逆立つほどの恐怖を感じ、わたしは悲鳴を上げた。



「どうした!?」


「あ、あ、あれ……っ」


 扉に手をかけていた裕太が振り向き、わたしの指差す方向に視線を向ける。


 しかし──



「何? 何もないけど……」


「そ、そこに、頭が浮かんでたの……!」


 わたしの言葉も虚しく、そこにはもう何も浮かんではいなかった。


 そんなはずないのに……。



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