檻の中



 絶望の波に呑み込まれ、うちひしがれる。


 奇跡でも起きない限り、わたしたちはここでゲームオーバーと言うことになってしまう。


 お願い、神様……!


 そんな願いが通じたのか、扉の施錠が外れる音が響いた。


 もしかしてイシザキだろうか?


 裕太と顔を見合わせたわたしは、扉の外側に立っている人物を見て笑みを引っ込めた。



「やぁ、久しぶり。206番ちゃん」


 片目をつぶった所長の田中が拳銃を手に立っていた。


 よりによって……。


 銃口をわたしの頭に突きつけられる。


 背後から、裕太が舌打ちする音が聞こえた。



「動かないで、ロミオくん。この娘の頭が吹っ飛ぶならいいけどねー」


 相変わらずの軽い口調で脅すと、再びわたしに視線を移す。



「それにしても、よくここまで来たね~。死の池を泳いできたんでしょ? 死体がゴロゴロしてるんだよ、あそこ」


「……っ!」


 田中の言葉を聞いて、わたしは絶句した。


 やはり、あれは人間の死体だったのだ……。


 しかし生きている人間の方が何倍も怖い。



「……わたしたちをどうする気?」


「ふふん。先日、裏取引が成立してね。ロミオがどうしても欲しいから、七福神のじい様に頼んでリンを処分してもらったんだよ」


 あっけらかんと言い放つ田中。


 つまり、リンは七福神によって殺されたのか……。


 彼女の行為は許しがたいけど、殺されたとなると少し哀れに思う。



「だから、ロミオはもう僕のものなんだよね。これからは好きにさせてもらう。で、君は……」


 田中の冷たい目つきに、背中に戦慄が走る。


 本当に同じ人間だと思えないくらい、心が歪んでいるような気がした。



「飼い主のイシザキちゃんがじい様を殺しちゃったから、掟破りの反逆罪で今さっき投獄されたよ」


「え……」


 さすがのイシザキも、あの怪我では本領を発揮できなかったか。


 わたしは残念に思いながら、絶体絶命のピンチに頭が真っ白になった。


 

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