檻の中
「だから、ね。悪いけど、君にはここで死んでもらっていい?」
カチ、と拳銃の引き金に指をかける田中。
軽い口調とは裏腹に、目は笑っていない。
殺される……!
わたしは身の危険を感じながらも、恐怖で凍りついたように動けなくなった。
「萌! やめろ、殺すなら俺にしろ」
裕太がわたしの前に飛び出して、両手を広げる。
またしても彼に助けられ、嬉しさと不甲斐なさで頭の中がごちゃ混ぜになった。
「ああっ! ロミオ、どきなさい。君には怪我をさせたくない」
田中がわたしを見据えたまま、苛立った声を上げた。
あくまでも、狙いはわたし……。
この場を切り抜けるには、死ぬしかないのか。
「裕太……。もう、いいよ。わたしなら大丈夫」
「はぁ? 何言ってんだよ! 俺の後ろに隠れてろって……」
慌てた様子で制止しようとする裕太を振り切って、わたしは自ら前に出た。
田中が再びニヤリとして、拳銃を構える。
「そう、それでいい。僕は優しい男だから、痛めつけずに一瞬で殺してあげるよ」
楽しげに言いながら、ゆっくりと引き金を引く。
わたしは目をつぶり、受け入れようとした。
怖くて身体が震えてしまうけど、裕太を巻き添えにしたくない。
後は、田中が裕太を痛い目に遭わせないでくれることを祈るばかりだ。
「萌……ダメだ。頼む、撃つな。撃たないでくれ!」
「お願い、裕太。わたしの好きにさせて」
「萌……やめろ、お願いだ」
裕太の切迫した声に胸が痛む。
でも、わたしはもう覚悟を決めたんだ。
「ありがとう、裕太。愛してる」
「……っ、萌!」
「さようなら」
別れの言葉を口にした瞬間、銃声が轟いた。
「……萌────!!」