檻の中
先に動いたのは裕太だった。
わたしに駆け寄り、肩を支えてくれる。
「萌……。怪我はないか?」
「大丈夫。それより、イシザキさんが……」
泣きそうになりながら、ぐったりとするイシザキの身体にそっと手を伸ばした。
すると突然、イシザキがわたしの手首を強い力で掴んできた。
「きゃっ……」
「……っ、萌を離せ!」
裕太がとっさにイシザキに銃口を向ける。
「裕太。大丈夫だから……」
「ふっ。ロミオ、お前は俺を撃てない。手が震えてるぜ」
力なく笑うイシザキを見て、裕太は彼に敵意がないのが分かったのか拳銃を下ろした。
「バ、バカにするな! 俺は萌を助けるためなら、人殺しにもなってやる……」
「若いな。だが、その若さがなければここから出ることはできない」
いきり立つ裕太に、イシザキが満足そうに言う。
喋るたびに荒い息が漏れ、かなり辛そうだった。
一刻も早く、手当てをしなければ致命傷になるだろう。
「イシザキさん……死なないで」
わたしはイシザキの傍らにひざまずき、その青白い顔に手を添えた。
裕太が何か言いたそうにしていたが、察しのいい彼は黙って見守ってくれている。
「俺を誰だと思ってるんだ? ……今までも、何度も死ぬような目に遭ってきている」
その眼差しはどこか寂しげで、知るはずのない少年時代の彼が想像できた。
きっと、この人はずっと孤独だったんだ……。
「約束してね? 死んだらダメだよ……」
「……うるせぇ。主人の俺に指図するな、ジュリエット」
この期に及んで悪態をつくイシザキに、わたしは思わず笑みをこぼした。
それと同時に、今まで抑えていた感情が胸に込み上げてくる。
それは、イシザキへの思慕だった。