檻の中



 先ほどの男が姿を現し、わたしの手足の拘束を外した。



「こっちに来い」


「きゃっ……!」


 がっしりと腕を掴まれ、勢い良く引っ張られる。


 こんなに腕力のある男から身を守るすべを、わたしは知らない。


 検査室の奥にあるドアを開けると、人気のない薄暗い廊下に出た。



「十分で身を清めろ。一秒でも遅れたら、裸のまま歩いてもらう」


 男は白塗りの扉を開けて、わたしを力ずくで押し込んだ。


 そこはシャワー室だった。


 背後で扉が閉まり、わたしは目の前の鏡を見つめた。


 疲れた顔……。


 少し痩せた頬に手をやりながら、深いため息をつく。


 今のわたしは、まるで育児に疲れた三十路の主婦のように見える。


 自分の憔悴しきった姿に、監禁生活がどれだけ心身に負担を与えたかを痛感した。 


 ……そうだ、こんな感慨にふけってる場合じゃない!


 制限時間はたったの十分。


 その間にシャワーを浴びて、汚れた髪と身体を洗わなければならない。



「熱っ……」


 シャワーのお湯はかなり熱く設定されており、ちょうどいい温度になるまで少し待たなければならなかった。


 今にも男が室内に入ってきて、わたしの腕を掴むのではないかとヒヤヒヤする。


 備え付けのシャンプーで髪を洗い、ボディーソープで身体を洗った。


 本当は湯船に浸かりたいが、シャワーを浴びられただけマシだと思うことにしよう……。


 わたしはシャワー室から出ると、用意されていた白いワンピースに着替えた。





< 15 / 148 >

この作品をシェア

pagetop