檻の中
「ふん……正直に書いたわね。賢い選択じゃないの」
書き終わった用紙を渡すと、山口はニヤリとした。
その口ぶりから、わたしの個人情報をすでに把握しているようだ。
携帯電話の入ったバッグを奪われたから、当然と言えば当然かもしれないが……。
「嘘をつくのは簡単だけど、貫き通すのは難しいものよ。身の破滅にも繋がりかねない」
山口が鉛筆をくるくる回しながら、嬉しそうに声を弾ませる。
理屈としては分かるけど、何が言いたいのか分からず黙って聞いていた。
「お客は嘘つきを嫌う。だから、私たちも嘘をつく子にはお仕置きをしなきゃいけないの」
「お客……?」
首を傾げるわたしを見て、山口は意味ありげに唇をつり上げた。
そして、隠し持っていた鞭でテーブルを叩いた。
ヒュッと空を切る音に続き、バチンと言う凄い音ががらんとした室内に響き渡る。
「……こんなふうにね」
身体を強ばらせるわたしに、山口は意地の悪い笑みを向けた。
あんなもので打たれたら、激痛にのたうち回るだろう。
わたしは鞭を振るわれる自分の姿を想像し、肌が粟立ちそうになった。
山口は“嘘をつく子”と言った。
わたしの他にも、同じ年頃の少女がいるのかもしれない。
誘拐されたのは自分だけではないと思うと、少しだけ勇気が湧いてきた。
しかし、連中の狙いがますます分からなくなってくる。
誘拐……身体検査……お客……少女。
それぞれのキーワードを繋ぎ合わせたら、何が浮かび上がってくるのだろうか。
わたしはある仮説に思い当たり、まさか、と頭を振って否定した。
この平和な日本で、“そんなこと”は有り得ない──。
自分の胸に言い聞かせるけど、胸騒ぎを止めることは出来なかった。