檻の中
男に押し込まれるがままに室内に入る。
薄暗く、カビ臭い……。
学校の体育館の舞台裏を思わせるような造りだった。
狭い階段を降りて行くと、安楽椅子が置かれていた。
洋画に出てくる処刑椅子を思わせるそれに、わたしは不吉な予感を抱かずにいられなかった。
「椅子に座れ」
「やっ……!」
男に無理やり椅子に座らせられたかと思うと、手足を固定された。
身体の自由を奪われ、頭の中が混乱する。
「何でこんなことするの? ねぇ、ちょっと待って!」
わたしの呼びかけに応えることなく、男は一仕事終えたように両手を振り回して立ち去った。
一人残されたわたしは、不安と恐怖にガタガタと震えていた。
『さぁ、205番に買い手はつくか……? 皆様、哀れな205番に救いの手を!!』
恐らく舞台だと思われる頭上から、マイクを通した男の声が降り注ぐ。
205番……。
わたしの前の番号の少女が、今まさに売られようとしている。
姿は見えないものの、歓声や熱気が痛いほど伝わってきた。
日常的に、こんなことが行われているなんて……。
異次元の世界に迷い込んでしまったかのように、わたしは絶望に打ちひしがれた。
『皆様……冷やかしはいけませんよ。205番はボロ雑巾のように小汚いですが、必ずや貴殿のお役に立つことでしょう』
司会者らしき男の声には、下品な含み笑いが混ざっていた。