檻の中
ボロ雑巾って……。
205番の少女は、一体どんな仕打ちを受けたのだろう。
見えもしない彼女の悲惨な姿が脳裏に浮かび、わたしはゾクッと背筋を震わせた。
きっと、こんな所に連れて来られるまではいたって普通の子だったに違いない。
『それでは、オークションを始めましょう。紳士淑女の皆様、一万円からのスタートです!』
男がそう言うと、会場にファンファーレが鳴り響いた。
淑女と言うことは、女の買い手もいるのだろう。
男に買われるよりは、同性に買われた方がまだマシかもしれない──わたしはそう思った。
山口の言う、鬼畜趣味のお客が男だけだとは限らないが……。
『二万円……おっと、十万円! さぁさぁ、値がつり上がって参りましたよ。十五万円……。出ました、三百万えーん!!』
興奮気味の男の声に続き、ガンガンと小槌を叩く音がした。
『ミスターB様、三百万円で出品番号205番をお買い上げ~! 毎度ありがとうございます、ミスターB様……』
会場が拍手と歓声に包まれる。
“毎度”と言う言葉で、オークションの客が常連であることが窺えた。
三百万円──それが、205番の少女につけられた値段だった。
わたしには、それがこの狂った世界で安いのか高いのか分からない。
人の命を売買すること自体、間違っているのだから。
わたしは幾らで売られるのだろうか……。
あまりにも現実離れした世界に、正常な感覚を失ってしまいそうになる。
椅子の肘掛けに固定された手は汗でにじみ、合わせた膝が小刻みに震えていた。
『それでは、本日の目玉商品を皆様にご覧いれましょう……。206番の出品を始めます!』
男の声とともに、椅子がゆっくり上昇し始めた。
「ひっ……嫌ぁっ!」
わたしは椅子の上で身をよじり、恐怖で頭の中が真っ白になった。
スポットライトを浴びた瞬間、目が眩みそうになった。
オークション会場は異様な熱気に包まれており、わたしは外敵に怯える小動物のように身体を硬直させていた。