檻の中
舞台上から、薄暗い観客席が見える。
顔までははっきり見えないけど、百人くらいの男女が座っていた。
高い天井に奥行きのある造りは、小さなコンサート会場を彷彿とさせた。
無数の視線が突き刺さり、わたしは彫像のように固まってしまう。
口笛を吹く者、拍手をする者、隣席の人に耳打ちする者、腕組みをしてじっと動かない者……。
男の客が圧倒的に多いが、女の姿もちらほら見えた。
「いかがですか、皆様。この可憐な容姿……、本日の目玉商品にふさわしいではありませんか!」
その声に振り向くと、タキシードに身を包んだ小男がマイク片手に歩み寄ってくるのが見えた。
「助けて……。お願い、こんなことやめて!」
わたしは司会者の男を涙目で見つめながら、必死に哀願した。
しかし男は首を振るだけで、取り合おうとはしなかった。
「さて、この206番のプロフィールをご紹介しましょう。皆様、モニターにご注目下さい」
男は舞台上にある大きなモニターを指し示し、客の注目を集めた。
わたしの姿とともに、細かいデータが映し出される。
「出品番号206番。本名、長澤萌。十六歳……」
男が手元の資料に目を落としながら、わたしの生年月日、身長と体重、血液型、スリーサイズ、視力などを淡々と読み上げる。
さらには通っている高校の偏差値、学校の成績、友達の数、習い事の遍歴……。
そして最後に、健康状態は良好であると締めくくった。
「心理テストの結果では、素直で明るい性格と言う診断が出ています」
男の言葉を聞いて、わたしはたかが心理テストで何が分かるんだと心の中で毒づいた。