檻の中
わたしの値段が今、この場で決まる──。
大人たちがスイッチを手に、戦闘体勢に入るのが嫌でも視界に入った。
「まずは百万円からのスタートです。おっと、いきなり五百万円につり上がった! 七百万円……一千万円!!」
司会者の男が興奮のあまり、声を上ずらせる。
一千五百万円……二千万円……二千八百万円……。
瞬く間に、わたしの値段がはね上がっていく。
こんなのバナナの叩き売りと変わらない。
わたしはモノじゃない……値段なんかつけないで!
悔しさと悲しみと恐怖で、頭の中がぐちゃぐちゃになった。
目をつむって、荒い呼吸を繰り返す。
醜い大人たちの欲望が作り上げた虚構の世界に、わたしは押し潰されそうになっていた。
「三千五百万円! すごい勢いで、値がつり上がっています……。四千万円突破ー!」
男はこんなに興奮したことはない、と言わんばかりに絶叫に近い声を上げた。
五千万円を過ぎると、客は慎重さと冷静さを
取り戻したのか、値段が小刻みにつり上がっていく。
五千百万円……五千三百万円……。
「キタノ様、五千四百万円! おっと、五千七百万円! リン様、お目が高い! な、七千万円は七福神様……!!」
目を開けると、司会者の男は嬉しい悲鳴を上げて武者震いをしていた。
わたしは視線を落とし、裕太のことだけを考えるように努めた。
彼もまた、売られてしまうのだろうか……。
「な、何と! 史上最高額……い、一億円の値をつけたのは、イシザキ様です! 他にいらっしゃいませんね? 出品番号206番、一億円で落札~!」
小槌を叩く音に、一際大きな歓声が場内に響き渡る。
一億円……。
わたしは他人事のように、モニターに映し出された9桁の数字をぼんやりと見上げた。
問題は値段ではなく、どんな客に買われたかと言うことだ。
わたしを買ったのは、イシザキと言う男……。
果たしてどんな人物で、目的は何なのか──このときはまだ知る由もなかった。