檻の中
「うぅっ……。わたしの手がぁ……ヒック。何でこんな……あぁああっ」
痛みとショックのあまり、わたしの顔面は涙でぐちゃぐちゃになった。
焼き印を押された皮膚は赤黒くただれ、謎めいた模様が刻まれている。
もはや人間の手ではなくなった自分の右手を放心状態で見つめながら、わたしは子供のようにしゃくり上げた。
酷い……酷すぎる!
まるで家畜か奴隷になったような気分だった。
「さすが206番ちゃんは、泣き顔も美しいねぇ。要らないならボクが食べちゃおう」
田中は非情に笑いながら、わたしに差し出したキャンディを自分の口の中に放り込んだ。
その広い額にはうっすら汗が滲んでいる。
わたしはこんなに人を憎んだことがないと言うくらいに、恨めしげに田中を睨みつけた。
同じことをして、苦痛に泣き叫ぶ姿を見てみたい……。
わたしは自分の中に芽生えた邪気を自覚し、少し怖くなった。
心身を虐げられた人間は、こんなふうに歪んでいくのだろうか。
「じゃあ、ボクの役目はこれでおしまい。後は頼んだよ、クロ」
田中の言葉に頷き、プロレスラーの男がわたしの腕を乱暴に掴んだ。
「……痛い! もうやめて。ほっといてよ……」
脱力して膝に力が入らず、男に引きずられるようにして歩く。
「クロ。彼女は一億円だ。割れ物と同じように丁重に扱いなさい」
“一億円”を強調する田中の声に、男は素直に従って力を緩めた。
焼き印を押された皮膚がズキズキと疼く。
身体の一部を切り取られたような喪失感に襲われ、わたしはふらつく足取りで男にぶつかりながら歩いた。
「バイバイ。またね~」
田中が手を振りながら、明るい声で言う。
その爪には桜色のマニキュアが塗られていたが、今のわたしにとっては心底どうでもいいことだった。