檻の中
対面
それから数分後、わたしはとある部屋にいた。
細長い廊下の両端に扉が立ち並び、左側の一番奥の部屋に押し込まれた。
家具類は一切なく、殺風景な部屋……。
それでも、最初の檻に比べると広くて綺麗だった。
新居に越してきた猫のように、ウロウロと部屋の中を歩き回る。
監視カメラの存在に気づき、わたしはため息をついて顔を背けた。
「お前のご主人様がじきにやって来る。身繕いして、大人しく待ってろ」
プロレスラーの男がそう言い残し、部屋から出て行く。
ご主人様……。
とうとうイシザキと言う男に会うのだと思うと胸が騒いだ。
わたしを一億円で買った男。
一体どんな酷いことをされるのか、考えただけで恐怖のあまり叫びそうになった。
扉には鍵がかかっていない。
部屋から抜け出し、どこかに隠れてしまおうか?
しかし、見つかったときのことを考えたら足がすくんだ。
部屋の奥のバスルームにはトイレも完備されており、わたしは少しホッとした。
急いで用を足して、冷たい水で顔を洗う。
洗面台の鏡を覗き込むと、泣いたせいで目が赤くなっていた。
気分を落ち着かせようと、田中からもらったキャンディを口の中に入れる。
「んっ……?」
甘酸っぱいフルーティーな味が口の中に広がったかと思うと、舌にピリピリした小さな刺激を感じた。
何……これ?
わたしは戸惑いつつも、キャンディを舌の上で転がし続けた。
そのうち心臓が早鐘を打ち始め、呼吸が荒くなってきた。
「ハァ、ハァ……。何なのっ……?」
頭がクラクラするのに、不思議と気分は悪くない。
むしろ気持ちいいような……。
「──おい。そこで何をやってる」
背後から低く鋭い声が聞こえたが、わたしはキャンディを味わうのに夢中だった。