檻の中
裕太が苦しんでいる姿を見ているのは辛かったが、これが現実なんだと自分に言い聞かせる。
嘆き悲しむのはまだ早い。
まだ生きているなら、何とか助ける手立てを考えるまでだ。
わたしは大きく息を吸い込み、イシザキをまっすぐ見つめた。
「お願いします、イシザキさん……。どうか、裕太を助けてください!」
涙を堪えて頭を下げる。
つかの間の静寂の後、イシザキがおもむろに口を開いた。
「俺に男を買う趣味はない」
「そ、そうじゃなくて……。せめて、水と食べ物をあげて欲しいの。買わなくていいから──」
「買い主にならなければ、何も与えることは出来ない。ロミオの生死は、買い手がつくかどうかにかかっている」
イシザキの言葉にわたしは軽い目眩を覚えた。
少年は少女よりも需要が少なく、待遇も悪いらしい。
イシザキの情報によると、裕太のオークションは明日……。
それで買い手がつかなければ放置されるか、処分場に送られる。
わたしは改めて地下売買の恐ろしさを肌身で感じた。
「あなたは裕太を助ける気がないのに、わたしにこの映像を見せたの? 酷い……!」
「そうだ。俺は親切でやってるわけじゃない。実験のためだ」
「……実験?」
眉をひそめるわたしを見て、イシザキは白い歯をチラリと覗かせた。
吸血鬼みたいに厭らしい笑い方……。
「ロミオとジュリエットの悲劇を再現する実験だ。同じ結末を辿るか……楽しみだな」
「わたしを買った理由がそれ?」
声を尖らせ、思わず拳を握りしめていた。
イシザキはオークションで、わたしが恋人と引き裂かれたことを知って、この実験を思いついたのだろう。
自分はシェイクスピアのつもりで……。
『ハァ……ハァ……くッ!』
モニター画面から音声が流れてきて、わたしはハッと顔を上げた。
裕太が手足を動かし、小さく空咳をする。
『萌……。負けるな……』
そう呟いた声がハッキリとわたしの耳に届いた。
裕太……!
こんな過酷な状況下に置かれても、わたしのことを思ってくれている彼の優しさに自然と涙が零れた。