檻の中
「裕太……ありがとう。わたし、頑張るから! 裕太も絶対に負けないでね」
こっちの言葉は届かないけど、わたしは声に出さずにはいられなかった。
その様子を黙って見ていたイシザキがふんと鼻を鳴らし、モニターの線を引き抜いた。
画面から裕太の姿が消えて、真っ暗になったモニターに呆然と立ち尽くすわたしの姿が映し出される。
「どうして……」
「ロミオを見られるのは、俺が部屋にいるときだけだ。また明日、オークションのときに来る」
イシザキは扉の前で立ち止まると、ポケットに手を入れたまま振り返った。
「チャイムが鳴っても扉を開けるな。貴様の命を狙う殺人鬼かもしれん。職員の場合、鍵を開けて入ってくる」
「さ、殺人鬼?」
「客にも色々な人種がいる。平和ボケした頭じゃ理解できないだろうがな」
一瞬ニヤリとして、すぐに真顔に戻る。
部屋にいても安全ではなく、油断は禁物なのだろう。
広大なサバンナに放り込まれたような不安感が胸に広がっていく。
今のわたしは野性の小動物と同じ……。
「後で、貴様に贈り物を届けさせる。ちょっとした食糧と一緒にな」
「……」
わたしは何も言えず、イシザキをただ見つめることしか出来ない。
扉の構造上、部屋から簡単に出られることに気づいた。
「……逃げたいか? 逃げられるものなら逃げてみろ。ただし、捕まえたら容赦はしない」
お前の考えていることはお見通しだと言わんばかりに、イシザキは低い声で静かに言った。
固まるわたしを見て満足したのか、散歩でも行くかのような気軽さで部屋から出て行った。
ガチャリ……扉が閉まると同時に、重い施錠音が室内に響いた。