檻の中



 イシザキが部屋から出て行ってしばらくすると、わたしはようやく金縛りが解けたようにふらふらと動き出した。


 自分を買った男との対面は、思った以上に緊張を強いられた。


 今になって足に震えが走り、わたしは台に手をついて身体を支えた。


 初日からこんなふうでは身が持たない……。



「あっ、そうだ」


 モニターの線を差し込んで、画面に裕太の姿が映るのを待った。


 しかし、画面は真っ暗なまま……。


 主電源が落ちているのだろうか?


 わたしは落胆してため息をつくと、床に座り込んだ。


 何も考えられないくらい疲れていた。



 ガチャ──扉の施錠が外れる音がして、おなじみのプロレスラー風の男が室内に入ってきた。


 わたしを無言で睨むと、手にしていた紙袋を無造作に台の上に置いた。



「立って後ろを向け」


「は……? 痛いっ!」


 男にガシッと腕を掴まれ、勢いよく引っ張り上げられる。


 痛みに顔をしかめながら、わたしは無理やり後ろを向かされた。


 もう抵抗する体力すら残っていない。



「お前のご主人様からのプレゼントだ。動くと怪我するぞ」


「っ、何を……」


 わたしは首に違和感を覚えてゾッとしたが、大人しくじっとしていた。


 ──首輪?


 犬がするような首輪を取り付けられ、わたしはショックで呆然とした。


 きつくはないが、首を動かすたびに革が皮膚に柔らかく食い込む。



「その首輪をしている以上、お前はどこに逃げ隠れようと、ご主人様の監視下に置かれている」


 首輪の存在が気になって仕方ないわたしに、男は無表情で機械的に言った。


 あまり弄ると爆発するんじゃないかと怯えていると、男がさらに言葉を重ねる。



「自力で外すことは出来ない。ご主人様の怒りを買えば、首輪に仕込まれた毒によって苦しむことになるだろう」


「毒……!」


  途端に身体が重くなり、立っているのが辛くなった。


 貴様に一億も払ったのだから、せいぜい楽しませろ──そんなイシザキの含み笑いが聞こえてくるようだった。


 男が部屋から出て行った後、わたしはバスルームの鏡に自分の姿を映した。


 赤い革の首輪……。


 『Alex.R.Ishizaki』と、イシザキの名前が刻み込まれている。


 この首輪で忠誠心を煽っているつもりなのだとしたら、それは失敗もいいとこだ。


 心まではお金で買えないのだと言うことを、わたしはイシザキに証明してやりたいと思った。



 ……このときまでは。






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