檻の中
遠くから子供たちの歓声が聞こえる……。
ハッとして我に返ると、自分が遊園地にいることに気づいた。
ジェットコースターが青空を切り裂くように物凄いスピードで駆け抜けていく。
わたし、夢を見てたの……?
ラビリンスと言う迷路で男に捕まえられ、裕太と引き離された恐ろしい夢を。
そうだ、裕太……!
慌てて隣りを見ると、裕太が美味しそうに卵焼きを頬張っていた。
「この卵焼き、萌が作ったの? 美味しい」
にこやかに笑う彼の姿に、わたしは安堵のあまり涙が出そうになった。
良かった……二人とも無事だったんだ。
ただの夢だったんだ──よね?
ふいに、わたしは違和感に襲われた。
あの風船を持ったピエロがゆっくりこちらに向かって歩いてくる。
「裕太、あれ……見て!」
わたしは突然現れたピエロを指差した。
裕太が箸を止めて、訝しげな顔をする。
「ピエロ……?」
「ねぇ、逃げよう。早く!」
わたしは裕太の手を引っ張って立たせようとした。
あのピエロに捕まったらダメだと、本能が告げていた。
しかし、裕太は静かに首を振った。
「いや、無理だ。逃げ切れないよ」
そう言って、ピエロを顎でしゃくった。
ピエロの手には、いつの間にかナイフが握られていた。
「俺が囮になるから、萌はその隙に逃げるんだ。いいね?」
わたしの肩を掴んで、真剣な表情で言い聞かせてくる。
裕太は背を向けると、迷いもなくピエロの方に歩いて行った。
「ダメ、裕太! 行かないで……っ」
わたしの声に立ち止まることなく、彼はピエロの行く手を遮るように立ちはだかった。
ピエロがナイフを振りかざすのが見えた。
そして、ギラリと光る刃が弧を描き──
「いやぁっ……裕太ぁぁッ!」
わたしの悲鳴と、裕太の首から血が噴き出すのはほぼ同時だった。
さらなる悪夢に、わたしは再び意識を失った……。