檻の中
慌てて涙を拭い、気まずさを押し隠す。
イシザキはそんなわたしから顔を背けると、モニター画面の前に立った。
手をかざした瞬間、モニターの電源が入る。
魔法みたい……と思った矢先に、その手に小型のリモコンが握られていることに気づいた。
オークション会場が画面に映ると、わたしは思わず固唾を飲んだ。
あのときの異様な熱気が生々しく蘇ってくる。
司会者の男が得意気に少女の紹介をして、客の購買意欲を煽っていた。
出品番号211番の少女は終始うつむいていたが、自分が五百万円で買われることになった瞬間、身体を大きく震わせて泣いた。
そりゃ泣きたくもなるよね……。
少女の気持ちが痛いほど伝わってきて、わたしは同情せずにはいられなかった。
『ううっ……。う、う、うふ。ふふっ。ふは、ふはは! あははははっ!』
泣いていたはずの少女が突然、顎を突きだしながら高笑いを始めた。
会場が水を打ったように静まり返る。
少女は髪を振り乱し、大きく口を開けて笑い続けた。
な、何なの……?
わたしは少女の変貌ぶりに動揺して、傍らに立つイシザキを見上げた。
「簡単に言えば、錯乱状態に陥っているんだろう。自分がコワれてるとは知らずにな」
画面を見つめたまま、イシザキが冷淡な口調で言う。
錯乱状態……。
わたしは息を飲んで、泣き笑いの表情を浮かべている少女を静かに見守った。
「ああなってしまうと、拷問や調教の楽しみが半減する。客が望むのは、たいてい心身が健康な少女だからだ」
追い討ちをかけるようなイシザキの言葉に、さらに気分が沈んでしまう。
無垢な少女を自分の色に染め上げるのが奴らなりの飼育法だ──イシザキは他人事のようにそうつけ加えた。