檻の中



 司会の男が原稿に書かれたプロフィールを読み上げる。


 裕太はわたしより成績優秀で、運動神経も抜群だった。


 その上明るくて優しい性格で、誰からも好かれる太陽みたいな人。


 今の姿だけを見て、価値を決めないで……!



『212番の学生証の写真をお見せしましょう。いかがですか? 薄汚いショボくれた少年に見えますが、実はこんなに整った顔立ちをしているのです』


 わたしの祈りが通じたのか、裕太の本来の姿が会場のモニターに映し出された。


 今度は、美少年好きの客がいることを願う。


 とりあえず、買い手さえつけばこのまま死ぬことは免れるはずだから……。



『この212番は、一億円で落札されたジュリエットの恋人でした。我々の間では、ロミオと呼ばれています』


 司会者の言葉に、わたしは思わずイシザキを見た。


 ロミオと名付けたのはイシザキではなかったか?



「一億で買われた貴様は、職員の間でも有名だ。ジュリエットの恋人と言えば、ロミオだろ?」


 唇の片端をつり上げるイシザキを見つめながら、わたしは釈然としない気分で曖昧に頷いた。


 知らないうちに有名になっていたなんて……。



『それでは、オークションに参りましょう! たまには少年もいいですよ、皆さん』


 下品に笑う司会者に嫌悪感を抱き、わたしは顔をしかめた。


 買い手がつくことを望む一方で、裕太が売られることに対して怒りや悲しみも感じてしまう。


 矛盾しているようだが、それが正直な気持ちだった。



『十万円からのスタートです。十二万円……、十五万円……。さぁさぁ、ロミオ少年は幾らの価値があるのでしょうか?』


 小刻みに釣り上がっていくモニターの金額を見て、わたしは詰めていた息をゆっくり吐き出した。



 ……ひとまず、第一関門突破かな?






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