檻の中
しかし、まだ油断は出来ない。
オークションの行方を手に汗握りながら見守った。
『リン様、二十万円。おっと、田中所長が三十万円! 三十五万円はリン様……、三十八万円で田中所長が参戦中です!』
司会者の男が興奮気味にマイクを高く持ち上げる。
田中所長って、あの田中……だよね?
ここの職員がオークションに参加できるとは知らず、わたしは不安を募らせた。
「やはりな……。あのカマ男が関わったら、厄介なことになる」
イシザキが舌打ちをして、携帯を取り出す。
その言葉の意味はわたしには分からないが、鞭好きの田中に裕太を買われるのは嫌だった。
もちろん、誰なら良いと言うわけでもないけれど。
「──俺だ。百万でロミオを落札しろ。いいな? ……ああ、それはお前の好きにしろ」
携帯を耳に当てながら、イシザキは電話の相手に指示を出した。
オークション会場に仲間がいるのだろうか?
不思議に思っていると、イシザキの言った通り百万円で裕太が落札された。
『リン様が百万円で落札でーす! 田中所長、残念でしたね。またの機会にどうぞ』
司会者がおどけたように言うと、観客席から拍手と笑いが起こった。
舞台上のモニターに、外国人のように大げさに肩をすくめる田中の姿が映し出される。
「……落札者と知り合いなの?」
「それを聞いてどうする? 俺は田中を遠ざけるために口を出したが、ロミオを自由に出来るのは買い主だけだ」
イシザキは腕を組んだまま、眉一つ動かさずに言った。
つまり、裕太の運命はリンと言う落札者の手に委ねられたと言うこと……。
どんな人か気になったが、イシザキはじきに分かると言うばかりで何も教えてくれなかった。