檻の中
裕太……裕太……!
暗闇の中でわたしは何度も彼の名前を呼んだ。
どこにいるの?
ピエロに首を刺されて倒れた裕太の姿が脳裏に焼きついて離れない。
早く手当てしないと……!
焦る気持ちだけが先走り、わたしは暗闇の中をさ迷い歩き続けていた。
足の感覚がなく、自分が幽霊になったような気がした。
わたし……本当に生きてるの?
ふとそんな不安に襲われ、背筋がゾクッと震える。
ピチョン……ピチョン……
どこからか水の滴り落ちる音が響いていた。
わたしは音のする方へと、必死に意識を泳がせた。
頬に冷たい水滴が落ちた瞬間、目の前を閃光が走り抜けた。
「……ッ!」
自分の意思ではなく、ビクッと身体が大きく跳ね上がった。
幾つも亀裂の入った灰色の天井がぼやけた視界に広がる。
暗闇から解放されたものの、わたしはさらに混乱に陥った。
──ここは何処?
そんな疑問が頭の中に浮かんだ。
見たこともない部屋……と言うより、監獄のような狭い場所に閉じ込められていた。
亀裂の部分から水滴が垂れ落ちてくる。
半ば呆然としたまま、わたしは水に濡れた頬を手の甲で拭った。
ジャラ……
起き上がった拍子に、足首に繋がれた鎖が重い音を立てた。
「うそ……。何よ、これ!」
わたしは足の自由を奪っている鎖を忌々しく見つめながら声を上げた。
なぜ自分がこんな所に監禁されているのか、全く分からない。
そう言えば、裕太は無事だろうか?
ピエロに刺されたのが単なる夢だったことに安堵のため息をつきながらも、わたしはさざ波のように押し寄せてくる胸騒ぎを止めることができなかった。
どうか……裕太が無事でありますように。
両手を握りしめ、彼の無事を祈った。