檻の中
ミスターB



 気づいたら椅子に座ったまま、疲れて眠り込んでいた。


 わたしは鈍い頭痛を覚えながら、よろよろと立ち上がった。


 バスルームに入って、ユニットバスにお湯を溜める。


 ──久しぶりのお風呂だ。


 身体の芯から温まり、わたしは深く息を吐き出した。


 檻の中にいたときは、まさかお風呂にありつけるなんて夢にも思わなかった。


 ぼんやりする頭で今までの出来事を走馬灯のように思い出す。


 ラビリンス……ピエロ……檻の中……オークション……焼き印……。


 右手に刻まれた奴隷の証は、お湯の中でくっきりと浮かび上がった。


 誘拐されて今日で何日目だろう?


 まだ一週間も経っていないことは確かだ。


 家族や友達がわたしの身を案じているかと思うと、どうにかして無事を知らせたくなった。


 イシザキに手紙を出したいと、思い切って頼んでみようか?

 
 いやいや、それは命取りになる危険な賭けかもしれない……。


 わたしは考えを巡らせた挙げ句、今はまだ頼まない方がいいと結論を下した。



 着替えの下着やワンピースが増えているような気がする。


 わたしが眠り込んでいる間に、イシザキか職員が持って来たのだろうか?


 侵入者に気づかないほど深い眠りに就いていたのだとすると、我ながら危機感のなさに呆れてしまう。


 あるいは、職員たちは足音や気配を殺す訓練でも受けているのか……。


 どちらにしても薄気味悪かった。



 ピンポーン



 髪を乾かし終わって部屋に戻ると、チャイムが鳴り響いた。


 ……誰?


 突然の訪問者に、わたしは石像のように固まってしまう。


 イシザキか職員なら鍵を持っているはずだ。


 唾を飲み込み、覗き穴から訪問者の姿を確認する。



「──え?」


 わたしは思わず小さく呟いた。






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