檻の中



 冷たいコンクリートの上で、わたしは膝を抱えてうずくまった。


 四方を頑丈な壁に囲まれた室内には窓がなく、あるのは固く閉ざされた扉と洋式トイレだけだった。


 扉を押しても引いても、びくともしない。



「ねぇ、お願い。ここから出して!」


 無駄だと分かっていても、わたしは扉を叩きながら叫ぶのを止められなかった。


 しばらくすると手と喉が痛くなり、ため息をついて部屋の隅に座り込んだ。


 静寂の中、自分の息遣いだけが耳に届く。


 湿気を含んだ空気は冷たく、薄着のわたしは寒さに身体を震わせた。



 春から冬に逆戻りしたみたい……。



 どうしてこんなことになったんだろう。


 “ラビリンス”に入らなければ良かった。


 あのピエロ、今思うとすごく怪しかった──獲物を待ち受ける毒蜘蛛みたいに。


 でも、そこへ飛び込んで行ったのはわたしだ……。


 裕太を道連れにして。 


 後悔と自己嫌悪が胸の奥に渦巻く。



 どのくらい時間が過ぎたのか、わたしには全く分からなかった。


 ただ寒さで手足の感覚がなくなっていくのと、空腹を感じていた。


 トイレは……


 ちらりと剥き出しの便器を見て、ため息を漏らす。


 ──まだ我慢できる。


 こんな場所と状況で用を足すのは抵抗があった。


 限界まで耐えるしかない、とわたしは変な目標を掲げた。


 ふと視線を上げると、天井の隅に監視カメラが設置されていた。


 今頃犯人はわたしの憔悴した姿を見て、ニヤニヤ笑っているのだろうか。



「……変態」


 苛立ちを覚えて、思わず小声で毒づく。


 もし犯人の耳に届いたら、どんな目に遭わされるか分からない。


 スリルと恐怖に身を縮めながら、わたしは監視カメラをチラチラ盗み見た。



< 6 / 148 >

この作品をシェア

pagetop