檻の中
冷たいコンクリートの上で、わたしは膝を抱えてうずくまった。
四方を頑丈な壁に囲まれた室内には窓がなく、あるのは固く閉ざされた扉と洋式トイレだけだった。
扉を押しても引いても、びくともしない。
「ねぇ、お願い。ここから出して!」
無駄だと分かっていても、わたしは扉を叩きながら叫ぶのを止められなかった。
しばらくすると手と喉が痛くなり、ため息をついて部屋の隅に座り込んだ。
静寂の中、自分の息遣いだけが耳に届く。
湿気を含んだ空気は冷たく、薄着のわたしは寒さに身体を震わせた。
春から冬に逆戻りしたみたい……。
どうしてこんなことになったんだろう。
“ラビリンス”に入らなければ良かった。
あのピエロ、今思うとすごく怪しかった──獲物を待ち受ける毒蜘蛛みたいに。
でも、そこへ飛び込んで行ったのはわたしだ……。
裕太を道連れにして。
後悔と自己嫌悪が胸の奥に渦巻く。
どのくらい時間が過ぎたのか、わたしには全く分からなかった。
ただ寒さで手足の感覚がなくなっていくのと、空腹を感じていた。
トイレは……
ちらりと剥き出しの便器を見て、ため息を漏らす。
──まだ我慢できる。
こんな場所と状況で用を足すのは抵抗があった。
限界まで耐えるしかない、とわたしは変な目標を掲げた。
ふと視線を上げると、天井の隅に監視カメラが設置されていた。
今頃犯人はわたしの憔悴した姿を見て、ニヤニヤ笑っているのだろうか。
「……変態」
苛立ちを覚えて、思わず小声で毒づく。
もし犯人の耳に届いたら、どんな目に遭わされるか分からない。
スリルと恐怖に身を縮めながら、わたしは監視カメラをチラチラ盗み見た。