檻の中



 初めて殺気と言うものを感じた。


 ミスターBよりも、イシザキの方が一枚上手だったのだろう。


 監視カメラを停止しようが、この男に隠し事は出来ないと言うことだ。
 

 下手に言い訳しようものなら、わたしは半殺しの目に遭うかもしれない。
 


「……ごめんなさい! まさか、モニター画面に現れるとは思わなくて……」


 素直に謝り、自分の非を認める。


 だけど、わたしは後ろめたさは感じていない。


 わたしが今ここにいるのは、ミスターBではなくイシザキを選んだと言うことだから……。



「あの男は、一度狙った獲物は逃がさないハイエナだ」


 壁から身体を離すと、ゆっくり歩み寄ってくる。


 ミスターBがハイエナなら、イシザキは黒豹と言ったところか。


 音もなくわたしの前に来ると、スッと手を差し出した。


 次の瞬間、ペーパーナイフを喉に突きつけられる。



「アイツは快楽殺人者だ。惨たらしく殺される前に、俺が楽にしてやろう」


 低い声で囁くように言うと、イシザキは口角をつり上げた。


 皮膚に刃先が食い込み、思わず「ヒッ」と声が漏れる。


 わたしは目をつむって“突然の死”に怯えた。


 息を詰めて固まっていると、急に喉の圧迫がなくなった。



「木材が腐る。……雑巾をかけろ」


 目を開けると、イシザキは背を向けていた。


 助かった……。


 わたしは安堵の息を吐き出し、緊張で強ばる手足をギクシャクと動かしながらバスルームに向かった。


 水浸しになった床を雑巾で拭き終わると、イシザキに椅子に座るように命じられた。


 ……裕太に会えるのかな?


 期待と不安を覚えながら、モニター画面をじっと見つめる。


 しかし──



「きゃっ! 何これ……?」


 ゾッとするほどおぞましい光景に、わたしは小さく悲鳴を上げた。


 画面には裕太の姿はなく、磔にされた全裸の少女が映っていた。







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