檻の中



 次の映像は、今までのような檻の中ではなかった。


 無機質なタイルの壁に囲まれた、病院のオペ室のような雰囲気だった。


 車輪の音とともに、ストレッチャーが運ばれてきた。


 手術着の男二人はぐったりしている少女をストレッチャーから寝台に移すと、無言でオペ室から出て行った。


 恐らく職員なのだろう。


 何が始まるの……?


 わたしは不安のあまり、息苦しさを覚えた。


 画面がズームし、横たわる少女の姿を映し出す。


 顔色が悪く、薄く開いた唇から微かな呻き声を漏らしている。



『ハァ……ハァ……。うう……』


 視線を宙にさまよわせ、ひどく怯えた表情を浮かべた少女。


 その不安と恐怖に押し潰されそうな様子を見ているだけで、わたしまで身体が震えてきた。


 オペ室と言う不気味な場所が一層の不安を掻き立てる。
 

 これからどんな恐ろしい事態が待ち受けているのかと思うと、吐き気を催した。


 靴音が近づいてきて、画面上に手術着を身につけた男がヌッと現れた。


 マスクと帽子に覆われて、ほとんど顔が見えない。



『四月六日、午前十時三十分。オペ開始』


 男はくぐもった声で言うと、注射器を手にした。


 そして嫌がる少女を押さえつけて、腕に針をプスリと刺した。



『ううッ……!』


 少女が顔を歪めながら呻く。


 今まで言葉を発していないのが気になった。



『フフフ……。麻酔がよく効いているようですね。身体中が痺れていますか?』


 男が歌うように言いながら、震える少女の頬を優しく撫でる。


 その特徴的な喋り方に聞き覚えがあった。


 ……ミスターB!


 わたしは衝撃を受けて凍りついた。



『うう……んぐぐっ!』


『諦めなさい。人生は諦めが肝心……。今の貴女は、まな板の上の鯉と同じなのです』


 ミスターBが静かな口調で諭す。


 少女は必死に手足を動かそうとするが、麻酔のせいか力が入らないようだった。


 言葉を発せられないのは、舌が麻痺しているからなのかもしれない。



『私は鬼でも悪魔でもなく、ただの人間です。貴女に苦痛を与えなくてはいけないことに、良心の呵責を感じてしまいますね……』


 ハァ、とわざとらしくため息をつくミスターB。


 その手にはしっかりとメスが握られていた。


 少女の着衣をはだけさせると、あらわになった白い胸にメスを入れた。


 柔らかい皮膚が紙のようにスッと切れる。


 しかし少女は気づかないのか、顔を歪めてはいるものの反応が薄かった。


 もしかして、麻酔のせいで痛みを感じないの……?


 わたしは息を飲んで、皮膚を切り裂かれる少女の様子を見守った。


 胸の膨らみに沿ってメスを入れると、ミスターBはさらに手を動かし続けた。


 少女の胸元があっと言う間に血塗れになる。



『……ひっ! うぎゃあああッ!!』


 自分の身体に起こった異変に気づくと、少女は目を剥いて不明瞭な悲鳴を上げた。


 胸に赤い花が咲いたようになっていた。


 グチャグチャと血と肉の音をさせながら、ミスターBが少女の乳房をえぐりとる。



『美しい……』


 恍惚の表情で真っ赤な塊を見つめると、大事そうに真空パックに入れた。


 少女の顔は血の気を失い、死人のように白くなっていた。







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